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【15分でわかる法律・白書・ガイドライン講座】動画でわかる、付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

※このコンテンツは、Youtube・ONDECKチャンネルにて配信中の動画シリーズ「経営者なら知っておきたい 15分でわかる法律・白書・ガイドライン講座」を書き起こしたものです。 動画はこちら からお楽しみください

この動画では、M&A仲介・支援を行っているオンデックが経営者の皆様にとって役立つ情報をお届けするために、中小企業白書や、中小M&Aガイドラインなど、膨大な情報が記載された公的な資料などから、経営にとって重要なポイントをピックアップし、15分でわかりやすく解説します。

今回は、中小企業白書の中から「中小企業の競争戦略」について解説します。

中小企業庁が発行する中小企業白書には、中小企業の動向や、 付加価値の増大、雇用維持などにつながる取り組みの調査結果や分析結果が多数掲載されています。しかし、中小企業白書は、580ページにも及ぶ膨大な資料です。この動画では、重要なポイントをピックアップし、15分でわかりやすく解説します。
 → 中小企業白書(中小企業庁WEBサイト)

重要なポイントを押さえて、日本全体の中小企業の傾向を把握し、明日からの経営に取り入れ、未来に繋げていきましょう。

 

ポーターの競争戦略の3類型

日本の中小企業はこの先、高齢化や人口減少などの構造変化に直面することが想定されています。また、足元では、残業規制や同一労働同一賃金といった「働き方改革」を始め、最低賃金の継続的な引き上げや被用者保険の適用拡大など、相次ぐ制度変更への対応が求められています。

企業は、生み出した製品・サービスの「付加価値」によって利益を得ます。企業が継続的に発展していくためには、いかに付加価値をつけていくか、また付加価値を生み出すべくいかにして生産性を高めていくかを考えなければなりません。この点、中小企業白書に掲載されている調査結果をもとに、自社の状態がどのようになっているか、照らして考えてみるのはいかがでしょうか。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

それでは、白書の内容を読み解きながら、付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略について見ていきましょう。

まず、ポーターの競争戦略の3類型についてです。白書では、ポーターの競争戦略の3類型に沿って、中小企業の競争戦略を分類・整理しています。

マイケル・ポーターといえば、ファイブフォース分析競争戦略の3類型バリューチェーンの考案者として有名です。

ファイブフォース分析は、産業の魅力度を分析する手法であり、日本語では、「5つの力」などとも呼ばれます。

競争戦略の3類型は、企業の戦略をコストリーダーシップ戦略・差別化戦略・集中戦略の3つに類型化し、業界内における各社のポジショニングを整理する手法です。

バリューチェーンは、自社や、競合他社の事業活動を5つの主活動と4つの支援活動に分類し、どの部分から付加価値が生まれているかを分析します。

白書では、こちらの競争戦略の3類型に基づいた分析が展開されています。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

ポーターの競争戦略の3類型では、2つの基準に従って戦略を分類しています。

第1の基準は、ターゲットとする市場の範囲です。全市場をターゲットとするか、あるいは特定の市場のみをターゲットとするかで、2つに区分されます。

第2の基準は、自社の優位性です。自社の優位性を価格競争力におくか、あるいは付加価値を生む差別化要因におくかで、2つに区分されます。この区分に沿って、戦略を次の3つに分類します。

第1に、全市場をターゲットとし、自社の価格競争力に優位性を見出すコストリーダーシップ戦略
第2に、全市場をターゲットとし、自社の差別化要因に優位性を見出す差別化戦略
第3に、特定の市場をターゲットとする集中戦略

以上が、競争戦略の3類型です。

なお、ここで3つ目の集中戦略は、自社の優位性を価格競争力に見出すか、あるいは差別化要因に見出すかで、コスト集中戦略差別化集中戦略に細分化することができます。

次に、各戦略のメリット・デメリットについて見ていきましょう。

コストリーダーシップ戦略のメリット・デメリット

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

まず、コストリーダーシップ戦略についてです。同戦略のメリットは、価格競争力を生み出す規模の経済や経験効果が他社に対する参入障壁となり得る点です。
コストの低減は、規模の経済によるボリュームディスカウントや累積生産量の増加に伴う経験効果による原価低減などを通じて実現されます。このため、他社が容易に模倣することができません。

一方、同戦略のデメリットは、低コストを維持するために一定以上の規模・稼働の維持が必要であることです。前述の通り、コスト低減は規模の経済による部分もあるため、一定以上の生産・販売を維持し続ける必要があり、そのために継続的な投資も行う必要があります。

差別化戦略のメリット・デメリット

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

次に、差別化戦略についてです。差別化戦略のメリットは、差別化要因そのものが他社に対する参入障壁となり得る点です。製品の機能的優位性やブランド力などが差別化要因の源泉である場合、他社が容易に模倣できません。

一方、差別化戦略のデメリットとして、差別化要因の確立・維持が容易ではない点が挙げられます。差別化要因は、他社に模倣されにくいというメリットがある一方、そもそも差別化を確立することが容易ではなく、またブランドイメージなどの場合、その維持には相応の負担が発生します。

集中戦略のメリット・デメリット

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

続いて、集中戦略についてです。集中戦略のメリットとして、特定の市場をターゲットとしているため、戦略の方針や具体的な施策が明確化しやすいという点が挙げられます。

一方、集中戦略のデメリットとして、特定の市場のみをターゲットとしているが故に、法規制や顧客トレンドの変化などにより、市場そのものが消滅するリスクがあります。

どの戦略を採用するかにあたっては、これらのメリット・デメリットを比較・検討した上での判断が望ましいといえます。

以上のポーターの競争戦略の3類型を前提に、中小企業白書を読み解いていきましょう。

競争戦略の採用状況

まず、各社の競争戦略の採用状況についてです。(中小企業白書P. II-6)

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

全体像として、全産業の企業を対象とした競争戦略の採用状況を見ていきましょう。

全市場をターゲットとするコストリーダーシップ戦略または差別化戦略を採っている企業は約3割、特定の市場をターゲットとする集中戦略を採っている企業が約7割です。また、優位性としては、全市場または特定の市場のいずれをターゲットとしている企業においても、コストより差別化を選択している企業が多数を占めます。

こうした全体像を踏まえて、ターゲット市場および優位性のそれぞれの軸で、業種別の傾向を見てみましょう。

ターゲット市場の観点

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

まず、ターゲット市場の観点です。全市場をターゲットとしている企業が多い業種として、「宿泊業、飲食サービス業」や「小売業」が挙げられます。
これらの業種では、全市場をターゲットとしている企業が6~7割にもおよびます。

一方、特定の市場をターゲットとしている企業が多い業種として、「建設業」「学術研究、専門・技術サービス業」「製造業」「情報通信業」が挙げられます。これらの業種では、6~7割の企業が特定の市場をターゲットとしています。

このような業種別の違いを踏まえると、消費者を顧客とするBtoCビジネス中心の業種では、全市場をターゲットとする企業が多く、法人を顧客とするBtoBビジネス中心の業種では、特定の市場をターゲットとする企業が多いものと考えられます。

BtoCの場合、全ての顧客を対象とすべく、全市場をターゲットとする傾向がありますが、これらの戦略は、本来は大企業が採用する戦略です。資本力や規模での勝負となると、大企業が有利になるため、中小企業にとっては、集中戦略がより望ましい戦略といえます。この点、後ほど「④差別化集中戦略の深堀り」で改めて検討します。

優位性の観点

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

次に、優位性の観点から見ていきます。こちらの観点では、全業種とも大きな差はなく、各業種とも8~9割の企業は差別化に優位性を見出しています。この点、コスト優位性の確立には、規模の経済や経験効果などが必要であり、業界大手の企業でないと実現が難しいため、このような結果になっていると考えられます。

以上が、中小企業における競争戦略の採用状況です。競争戦略の検討にあたっては、業界内における自社のポジショニングや自社が有する優位性を踏まえ、適切な戦略を採用することが重要です。

競争戦略とパフォーマンス

次に、競争戦略とパフォーマンス(業績や生産性)の関係について、見ていきましょう。
ここでは、次の4つの項目に関係した5つの指標について取り上げます。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

まず、競争戦略と営業利益率の関係です。(中小企業白書P. II-7)
企業が採用する競争戦略の類型ごとに、営業利益率の違いを見ていきましょう。白書によると、差別化集中戦略を採っている企業の営業利益率が最も高くなっています。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

次に、競争戦略と労働生産性の関係です。(中小企業白書P. II-8)
各競争戦略と労働生産性の関係は、こちらのグラフの通りです。労働生産性については、競争戦略の類型によって大きな差はありません。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

続いて、競争戦略と差別化の観点での優位性評価、すなわち、競合他社と比較した際、自社の主な製品・サービスの優位性についての総合的な自己評価の関係についてです。
各競争戦略と優位性評価の関係は、こちらの通りです。自社の優位性を「大きく優位」「やや優位」と考えている割合はグラフのようになっており、差別化戦略や差別化集中戦略を採る企業の場合、優位性評価はいずれも50%を超えています。

このように、採用している競争戦略によって、優位性評価が大きく異なっていることがわかります。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

次に、労働生産性と優位性評価の関係についてです。
優位性評価と労働生産性の関係をグラフにすると、労働生産性が高い企業の場合、優位性評価も高い企業が多く、逆に労働生産性が低い企業の場合、優位性評価も低い傾向があることがわかります。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

続いて、競争戦略と営業利益率、優位性評価の関係についてです。
競争戦略別に、優位性評価の最も高い企業群と最も低い企業群の営業利益率を比較すると、コスト集中戦略と差別化集中戦略を採用している企業で、営業利益率に大きな違いがあることがわかります。すなわち、営業利益率を高めるためには、市場の絞り込みと、優位性の確立の2つの点が重要です。この点については、この後の「④差別化集中戦略の深掘り」で詳しく解説します。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

以上の関係を整理すると、採用する競争戦略によって、営業利益率や労働生産性に、差が生じてくるといえます。
また、競争戦略に対する優位性評価が高いほど、労働生産性が高く、優位性評価が高い企業のうち、コスト集中・差別化集中戦略を採る企業で、営業利益率も高くなっていることが確認できます。

このように、採用する競争戦略によって、企業のパフォーマンスに差が生じることを十分に意識する必要があります。

差別化集中戦略の深堀り

次に、中小企業で最も多く採用されている差別化集中戦略を、深堀りします。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

差別化集中戦略は、特定の市場をターゲットとし、自社の優位性を差別化要因に求めるものです。このため、差別化集中戦略を実現するためには、「①市場の絞り込み」と「②差別化の取り組み」が必要となります。「①市場の絞り込み」については、「地域」や「顧客」を軸に絞り込んでいくことが考えられます。

一方、「②差別化の取り組み」については、「特定顧客向けの製品・サービスの開発」や「製品・サービスの高機能化」などが考えられます。差別化集中戦略を採る場合は、「①市場の絞り込み」と「②差別化の取り組み」の両方が重要となります。

今回取り上げたテーマのまとめ

最後に、今回のおさらいとまとめです。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

今回は、中小企業の競争戦略をテーマとして取り上げました。競争戦略の選択は、ターゲットの市場の軸、および自社の優位性の軸の2つの基準から考えます。
そこから次の4つの競争戦略が考えられます。自社の置かれた環境や強みを踏まえ、どの戦略を採るべきか判断しましょう。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

また、競争戦略の選択は企業のパフォーマンスにも影響します。差別化集中戦略を採用している企業は、営業利益率が最も高くなっていました。

また、自社の競争戦略の優位性評価が高いと考えている企業ほど、労働生産性が高く、その中でも差別化戦略と差別化集中戦略を採っている企業は営業利益率が高い傾向にあります。

付加価値の創出に向けた中小企業の競争戦略

また、中小企業で最も多く採用されているのは差別化集中戦略です。差別化集中戦略の選定にあたっては、「①市場の絞り込み」と「②差別化の取り組み」が重要になります。

このように、中小企業白書には、明日から役立つ情報が、多数掲載されています。今を知り、これからを考えることで、企業が新しい価値を生み出し、未来の経営につなげることができます。

ぜひ、明日からの経営にお役立てください!

文=オンデック情報局