オンデック・プレス ONDECK PRESS
M&Aガイド

コロナ禍の業績悪化を乗り越える「救済型M&A」の特徴とポイント

救済型M&A

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受け、多くの事業者に甚大な悪影響が生じており、先が見えない状況が続いています。

東京商工リサーチが2020年6月23日に発表した全国の新型コロナウイルスに関連した経営破綻の件数は累計277件に達しました。2020年2月は2件、3月は23件だったものが4月には84件に急増し、5月も83件で高止まりしました。6月は23日時点で85件となっており、このままでは月間100件を超える可能性もあります。経営破綻には至らないまでも、廃業を選択した事業者も多いであろうことを考えると実質的な数字はもっと多いのではないでしょうか。

一方で、経済産業省がリリースした「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ(※外部リンク)」では資金繰りに対する強力なサポートが紹介されています。リーマンショックの時と比べると金融支援の手立てが増えていることもあり、経営破綻の件数はリーマンショック当時よりは穏やかではあります。

コロナ禍の収束が見通せないうえ、緊急事態宣言の解除後も消費者の行動様式が元には戻らないため先行きが不透明なこともあり、上記のような金融支援を受けることを検討されている、もしくは既に支援を受けられている企業も多いかとは思います。しかし、この影響が長引いた場合、「金融支援では持ちこたえられず、息切れしてしまうのではないか……」といった不安は簡単に拭えるものではありません。

そこで本記事では、そうした企業が取りうる選択肢のひとつとして「救済型M&A」をご紹介したいと思います。

1.救済型M&Aとは

「救済型M&A」とは、経営不振に陥った企業を救済することを目的としたM&Aのことを指します。例えば2019年12月に家電量販店最大手のヤマダ電機が、大塚家具の第三者割当増資を引き受け子会社化したことは記憶に新しいですが、これも救済型M&Aの一例です。

大塚家具は販売不振によって2016年12月期から2018年12月期まで3期連続で最終赤字を計上し、これに伴い財務状況が悪化していました。ヤマダ電機からの出資を受け入れて財務状況の改善を図るとともにヤマダ電機への商品供給で収益拡大を目指している、とのIR情報が発表されており、救済型M&Aとして実施されたことがわかります。

救済型M&Aといっても、その手法は通常のM&Aと変わりはありません。通常のM&A同様、オーナー(株主)が保有する株式を、対価と引換えに買収企業に譲渡する「株式譲渡」の手法が採用されることが最も多くなります。譲渡企業への資金の注入のために、譲渡企業が新たに株式を発行し買収企業が引き受ける「第三者割当増資」と「株式譲渡」の手法を組み合わせる場合もあります。

2.「企業再生」との違い

一方で、救済型M&Aではなく、他社からの支援を受ける「企業再生」という手段によって事業を立て直す方法もあります。

本来、企業が借入を行う場合には、事業価値に見合った借入を行う必要があります。借入時点では事業価値と借入金が見合っていても、業績が予想どおりに推移しなければ事業価値が下がり、相対的に事業価値と借入金とが見合わなくなることがあります。

企業の借入金と事業価値が見合わなくなった時に、倒産という選択肢をとらずに民事再生をはじめとする法的整理手続の利用や私的整理手続を行い、過大となっている債務を一部カットしながらスポンサーからの支援等を受けて再生する手段が「企業再生」です。

この企業再生においては、金融機関や取引先からの債務のカットやリストラ等の痛みを伴うことが多くなります。また、通常はスポンサーからの資金は返済に回るため、オーナーの手元に資金は残りません。さらに経営者は経営不振の責任をとって交代することがほとんどです。

一方、救済型M&Aでは、株主(オーナー)の手元に株式の対価が支払われ、買収企業の意向によっては経営者の交代を伴わない場合もあります。この点が、救済型M&Aと企業再生との大きな違いといえるでしょう。

なお、スポンサーからの支援を受ける企業再生を、救済型M&Aの類型に含める場合もありますが、本記事においては企業再生は救済型M&Aと区別し、債務のカット等を伴わないものを救済型M&Aとして解説しています。

3.救済型M&Aのメリット

救済型M&Aのメリットとしては、次のようなものが挙げられます。

  • 債務のカット等が行われないため、債権者(金融機関・取引先)に迷惑がかからない
  • 信用力の低下といった事業の毀損が生じにくい
  • 譲渡企業のオーナー個人に対する保証責任の追及、または弁済請求等がなされない
  • 事業継続によって、従業員の雇用維持、取引先との関係維持を図ることが可能となる
  • M&A後の業績次第では、債権者が早期かつ確実に債権を回収することが可能となる
  • 事業廃止に伴う失業者の増加や取引先の連鎖倒産を回避でき、社会的利益に資する
  • 譲渡企業の株主(オーナー)に株式の対価が支払われる
  • 買収企業の意向によっては、譲渡企業オーナーの経営者としての地位が残る

4.救済型M&Aで実際に起こったケース

例として、2009年のリーマンショック後の不況下における救済型M&Aの成功事例を、具体的に「事案の概要」「成約に至るまでの経緯」「成功要因」の点から見てみましょう。

単にM&Aが成立したというだけではなく、M&A後に買収企業の業績が急伸したものを解説します。

① 事案の概要

[表1]譲渡企業と買収企業の概要

※表は横スクロールが可能です

譲渡企業 買収企業
業種 電子工業用装置開発・販売 計測機器装置開発・販売
規模 年間売上高:2.4億円
経常利益:収支均衡であったが、足元は赤字に転落
従業員数:15名
年間売上高:40億円
従業員数:150名
M&A検討の動機 後継者不在、経営基盤の強化 内製技術の強化
補足事項 ・創業約30年の企業
・社員の技術レベルが高い
・リーマンショックに伴い、足元の業績が急激に悪化
・新興上場企業
・更なる飛躍のため、内製技術レベルの向上を目指す
譲渡スキーム 譲渡企業の発行済株式の100%譲渡

② 成約に至るまでの経緯

このケースが成約に至るまでの経緯は、次のようなものでした。

  • リーマンショックに伴い、譲渡企業の足元の業績が急降下した
  • 買収企業は、譲渡企業の業績の悪化は考慮せず、譲渡側の希望金額のままでオファーした
  • 買収企業は、譲渡企業の高い技術力を持つ人材と、その技術の活用の方向性をしっかりイメージできており、技術評価に力点を置いた検討と買収監査(デューデリジェンス)を実施した
  • 従業員告知に多大な配慮と準備を行い、譲渡企業の従業員らのモチベーションが大いにアップした

これらの結果として、M&Aの実行から1年未満で譲渡企業の売上高は急上昇し、買収企業としても早期の投資回収を実現することができました。
互いの発展に寄与した救済型M&Aだったといえます。

③ 成功要因

救済型M&Aに限ったものではなくM&A全般に当てはまる内容ではありますが、譲渡企業・買収企業それぞれの立場から、成功だったといえる要因をまとめました。

【譲渡企業】

① M&Aに早期に着手した
② 一貫して「社員」と「会社の発展」を軸に据えた交渉姿勢を持っていた
③ 強みと弱みが非常に明確であった
④ 日頃から堅実経営に努めており、業績は急降下するものの負債が軽かった
⑤ オーナーは事後の経営に執着せず、買収側の方針に体を預けきった

【買収企業】

① 一貫して技術評価に力点を置いた検討姿勢を持っていた
② 財務調査に偏重することなく、バランスの良い買収監査を実施した
③ 過去よりも実行後の事業展開を明確に描きながら検討を進めた
④ 足元の業績悪化を交渉材料にせず、信頼を獲得した(減額交渉のメリット < 事業の成長によるメリット)
⑤ 従業員告知に十分に配慮し、多大な準備・労力を費やした

5.救済型M&Aのポイント

現実問題として、救済型M&Aにおいては、通常のM&Aと比べて相手探し(マッチング)の難易度が相当程度高くなることが通例です。これは、譲渡企業の業績が悪化もしくは債務が過大になっているケースが多く、買収企業のリスクが相対的に高くなるためです。

ただ難易度が高くなるとはいえ、譲渡企業に何らかの特徴的な価値(技術面でも営業面でも)があり、かつ買収企業がその価値を求めていて、M&Aによって大きな相乗効果を生み出しうる経営資源を持っている相手に巡り会えた場合には、成約の可能性が見えてきます。買収企業を探索するためには、買収企業の検討時間も勘案すると少なくとも2~3ヶ月程度の時間が必要です。

リーマンショック当時も多数の救済型M&Aが行われましたが、その裏では成約に至らない案件も多数存在していました。それらの案件に共通していえることは「初動でいったん自力再生に固執してしまい、M&Aへの着手が一歩遅れた」という点です。M&Aの着手から成約に至るまで、どれだけ早くても2~3ヶ月程度の時間は要するため、時間的な、そして資金的な余裕は必須と考えなければなりません。

6.最後に

冒頭部分でも紹介したように、国からも、企業の資金繰りに対する力強いサポートが様々に打ち出されています。一方で、無利子・無担保の融資、返済の据え置きがあったとしても、借入金は必ず返済しなければいけない時期がやって来ます。借入にあたっては、足元の必要性だけでなく、借入額が中長期的に事業価値と見合うかどうかという視点はやはり欠かせません。

コロナ禍の影響を大きく受けた企業におかれては、先行きが不透明ななかで今後も様々な選択を迫られることになるかと思われます。取りうる選択肢のひとつとして「救済型M&A」を紹介しました。厳しい状況のもとですが、少しでもお役に立てば幸いです。

弊社では、サポートさせていただく企業の事業規模を問いません。いわゆる小規模企業から中堅企業まで(年商数千万~数百億程度)、幅広い層の中小企業様に対して、積極的にM&Aの支援を行っています。私どもで何かお役に立てることがありましたら遠慮なくお気軽にお問い合わせください。

文=中井裕介(弊社コンサルタント)・司法書士法人 おおさか法務事務所

※本記事は「ウィズコロナを生き抜くための救済型M&Aという選択肢」(発行:司法書士法人 おおさか法務事務所)の弊社コンサルタントとの共同執筆記事を再編集したものです