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M&Aガイド

【M&A即効解決FAQ】M&Aは「合併」とはどう違う?/「株式譲渡」と「事業譲渡」の違いとは?

M&A即効解決FAQ_M&Aの手法

この【M&A即効解決FAQ】では、中小企業のM&Aに関して過去弊社に寄せられたご相談やよくあるご質問に回答する形で解説していきます。
これを機に、皆様の会社の成長のツールとして、また場合によっては皆様の会社の事業承継の一つの選択肢として、M&Aをより身近に感じていただけると幸いです。

今回は、中規模・小規模M&Aにおける一般的な手法・種類について解説します。

【Q1】M&Aってようするに「合併」と同じことなの?

M&Aと「合併」は同じ意味ではありません。「合併」とはM&Aにおける手法のひとつであり、ほかにもいくつかの手法があります。
M&Aと聞くと「合併(会社が統合されて1つになる)」をイメージされる方も多いかと思いますが、実際には、中小M&Aにおいては「株式譲渡(会社はそれぞれ存続する)」と呼ばれる手法をとることが一般的です。

弊社の感覚的な数値になりますが、「株式譲渡」が80~90%程度、「事業譲渡(※1)」と呼ばれる手法が10~20%程度の割合だと感じています。質問に挙げられた「合併」や「増資引受」といったその他の手法は、数%といったところでしょう。大規模M&Aにおいては「合併」の手法をとるケースも見受けられますが、中小M&Aにおいてはこの「合併」は敬遠されがちです。

合併とは「2つの法人が1つの法人になること」です。中小M&Aにおいて合併が敬遠される理由は、それに伴う業務負荷の高さに尽きます。

2つの法人が1つの法人になるためには、就業規則・給与体系・人事評価制度・会計処理・各種システム(会計・勤怠管理・生産管理・販売管理等)といった社内のルールや仕組み等を1つに統合する必要があります。

例えば、始業時間が「9時始業」と「10時始業」といった異なるルールの法人だった場合、従業員にルールの変更を納得させる調整が必要です。始業時間だけでなくあらゆるルールや仕組みについてこうした調整を行う必要があることを考えると、どれほど骨が折れるかイメージしていただけるのではないでしょうか。

また、実際に統合を進めるためには、こうした規則やルール等の統合に加えて、企業文化・風土という目に見えない部分の統合も進めなければならず、従業員に与えるストレスも相当なものになることは想像に難くありません。

こういった背景もあり、中小M&Aにおいては、M&A実行後も当面の間は2法人体制で進めることができる「株式譲渡」の手法をとるケースが圧倒的に多くなります。

なお、大企業間のM&Aにおいては、2つの法人の各部署(システム・人事・財務・経理・法務など)からエース級の人材を集めたプロジェクト・チームを立ち上げ、数ヶ月から数年程度の長い準備期間を経て統合を進めるといった手法が取れるため、「合併」も可能になっているものと思われます。しかしながら人材余力の小さい中小企業においては、そのような準備体制をとることは非常に困難でしょう。

※1:事業譲渡だけではなく、実質的には事業譲渡と同様の効果をもたらす「会社分割+株式譲渡」を含む

 

【Q2】中小M&Aにおいて「株式譲渡」以外の手段がとられることもあるの?

【Q1】で解説したとおり、中小M&Aにおいては「株式譲渡」の手法をとることが一般的であり、M&Aを実施することになった場合、まずは株式譲渡の手法を模索するのがセオリーになります。しかしながら、あらゆるケースにおいて株式譲渡が優れた選択肢であるとは限りません。場合によっては「事業譲渡」と呼ばれる手段をとることもあります。

比較のため、[表1]に「株式譲渡」と「事業譲渡」のメリット及びデメリットをまとめました。

[表1]「株式譲渡」と「事業譲渡」のメリットとデメリット

※表は横スクロールが可能です

株式譲渡 事業譲渡

特徴

  • 譲渡対象企業の既存株主から買収企業が株式を買取り、子会社化するケースが殆ど
  • 譲渡対価は株主に支払われる
  • 譲渡企業の保有する事業を法人から切り出して買い取り、対価は譲渡企業に入る
  • 承継する資産、負債を限定できる(事業全部の譲渡を、敢えて事業譲渡によって行う場合もある)

メリット

  • 法的手続が比較的簡素(基本的に当事者間の合意だけで進められる)
  • 雇用契約や対外契約の移転手続が少ない(株主が変わるだけ)
  • 早急な経営統合が不要で混乱が少ない
  • 譲渡人が個人株主の場合、分離課税20%で済む(現状は復興所得税が必要)
  • 必要資産・負債だけを選択して承継するので、簿外債務等のリスクが低い
  • 小規模事業の部分譲渡に適しており、M&Aの裾野が拡がる

デメリット

  • 簿外債務や過去の紛争を引き継ぐ恐れがある
  • 譲渡対象資産の移転手続が煩雑
  • 従業員は買収側企業に転籍となるため、個別に同意を得る必要がある
  • 事業に関連する対外的契約(取引契約等)もすべて買収企業側への移転手続が必要となる
  • 買収企業は資産及びのれん部分に対して消費税が別途必要となる

「株式譲渡」では、[表1]のデメリットにも記載したとおり、株式=法人格を譲り受けるがゆえに、法人に紐付く簿外債務や過去の紛争等を、株主として実質的に引き継いでしまう恐れがあります。
買収監査等を通じて当該リスクが高いと判断された場合には、「株式譲渡」の代替案として、必要な資産・負債だけを選択して承継でき、簿外債務等のリスクが低いとされる「事業譲渡」を選択されるケースが多い印象です。

以上、中規模・小規模M&Aにおける一般的なM&Aの手法に関する2つの質問にお答えしました。

弊社は、こうした特徴を持つ中小企業M&A支援に特化して実績と経験を積み上げてきております。私どもで何かお役に立てることがありましたら遠慮なくお気軽にお問い合わせください。

文=中井裕介(弊社コンサルタント)

※本記事は「経営情報誌 合理化 2019年夏号」(発行:一般社団法人 大阪府経営合理化協会)への弊社コンサルタント寄稿記事を再編集したものです。記載されている情報は掲載当時のものです