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M&Aガイド

【M&Aの手順と詳細】⑤ 優先度を明確に!  基本条件の交渉・調整

M&Aの手順と詳細_基本条件の交渉・調整

さて、複数の譲受候補先から意向表明書が提出された際でも、譲渡人の希望される条件を十分に満たす提案が存在しない場合もあります。その場合は、譲受候補先と基本条件の交渉・調整を行うことになりますが、今回は、その際に留意すべき点をご紹介します。

まず、通常、譲渡人が譲渡にあたって希望される条件は、一つではなく複数提示されるケースが多いですが、それらの優先度を明確にしておく必要があります。例えば、それが譲渡金額の場合もあれば、譲渡実行までの期間、既存取引先との取引継続、従業員の雇用維持かもしれません。同程度に重要度の高い条件もあるかもしれませんが、まずは譲渡人自身の価値観に照らし合わせて、希望条件の優先度を明確にすることが重要です。

実際、事業承継型M&Aでは、譲渡人の希望条件すべてを充足せずとも、M&Aが成立することは多々あります。勿論、希望条件の全てが満たされるに越したことはありませんが、本当に自らが譲れない条件以外は、時として受け入れる姿勢もM&Aを成立させるうえで重要な要素となります。

次に、仲介者・アドバイザーとの緊密なコミュニケーションです。譲渡人の意向を、実際に譲受候補先へ伝えるのは仲介者・アドバイザーになります。仲介者・アドバイザーが、単に意向表明書で提示された基本条件を、このような条件に変更して欲しいと譲受候補先へ伝達するだけでは、交渉はうまく行きません。仲介者・アドバイザーがその背景にある譲渡人の思いも含めて、なぜこの条件が譲れないのかを譲受候補先に説明することができて初めて、交渉・調整の余地が生まれます。

また、仲介者・アドバイザーを通じて、譲受候補先が提示してきた条件に至った理由を確認し、相手方の事情も把握することも交渉においては大切です。交渉・調整の場面に限らず、仲介者・アドバイザーは譲受候補先との唯一の接点となりますので、日頃から彼らとコミュニケーションを密にとるように心掛けましょう。

M&A取引は譲受候補との合意形成をもってのみ成立しますが、その合意形成プロセスの中では、譲渡人の意にそぐわない事象も発生することがあります。そのような時にこそ、M&Aでの事業承継を目指す理由を改めて見つめ、自らの考えをしっかり整理する必要があります。より良いM&Aを成立させるために、自身が譲れない条件は妥協することなく、自らの主張を仲介者・アドバイザーを通じて、しっかりと譲受候補先に伝えることが重要です。

文=外丸諒一(弊社コンサルタント)