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M&Aガイド

【M&Aの手順と詳細】⑥ はずせない財務デューデリジェンス(DD)のポイントとは?

M&Aの手順と詳細_財務デューデリジェンス

まず、今回のトピックであるデューデリジェンス“Due Diligence”とは、“Due(正当な、当然の)”と“Diligence(勤勉、努力)”を組み合わせた言葉で、直訳すれば「然るべき努力」とでも言えましょうか。M&Aにおける譲受企業が、投資/買収にあたって、その投資対象企業に投資金額に見合うだけの価値があるのか、また、投資金額には投資に伴う種々のリスクが適切に反映されているか、を調査・確認(=然るべき努力)する作業をいいます。
M&Aに携わっていると、使わない日はないくらい馴染み深い言葉でして、「デューデリ」「DD」といった略称が浸透しています。以下、本稿においては「DD」という略称を使用させていただきます。

「DD」は、大きく「ビジネス」「法務」「財務」の3つのカテゴリに分類されますが、今回は「財務DD」にフォーカスして解説いたします。

「財務DD」とは、突き詰めれば、投資対象企業の財務諸表が適切に作成されているかを確認する作業であり、(1)時価純資産額の算定(=BSの妥当性の確認)、(2)実質収益力の算定(=PLの妥当性の確認)が中心となります。

(1)の主な作業として、資産の実在性及び時価の確認(例:回収不能債権の有無、土地や有価証券の時価)、並びに、簿外債務の有無及び金額の確認(例:未払残業代や退職給付債務等の労働債務、偶発債務)があげられます。
また、(2)の主な作業として、節減可能費用・一過性費用の有無の確認(例:現オーナーの私的な経費、取引先との係争など一過性の要因により負担した費用)や買収後の体制強化に伴い必要となる追加費用の調査(例:新管理者の報酬、法定福利費)があげられます。

尚、これらの業務を実施するためには、深い会計・税務の知識が必要になるため、譲受企業自らが行うケースは稀で、監査法人や会計事務所に外注するケースがほとんどです。

さて、テクニカルな話はこれくらいにしておきまして、私どもM&A仲介業の立場からみた財務DDについても触れておきたいと思います。
財務DDに限らずDD全般に共通して言えることですが、M&A全体のプロセスの中で、譲渡企業及び譲受企業が深い接点をもつ初めての機会がDDです。それ故、例えば次に掲げるトラブルが散見され、やや怖いプロセスというのが正直なところです。

  • (双方向で、)イメージしていたタイプの方ではなかった。
  • 譲受企業による資料要求のボリュームを目の当たりにして、譲渡企業の心が折れた。
  • 譲渡企業が情報開示に積極的でなく、十分な情報が提供されない。
  • 財務DDの担当者が非常に細かい費用の中身に固執する。
    (数億円の投資案件において、数万円の仮払金の中身を調査するなど)
  • DD担当者が、譲渡企業に対してやや上からモノを言うなど横柄な態度をとった。

ただ、近年においては中小企業にまでM&Aが浸透し、それに伴って専門家のDDの経験値・スキルが向上しているため、専門家の経験不足に起因していた4点目や5点目のようなトラブルは減少傾向にあると感じています。

最後に、M&Aを進める中で、この財務DDのプロセスでつまずかないためには、譲渡企業・譲受企業ともに、お互いに対する理解がまだ浅いことを再認識していただき、お相手に対する十分な気遣いが大切になります。
加えて、譲受企業は、検討が進むと、数字面のみに目が行きがちな企業が多いのが実態ですが、そうした近視眼的な企業は、M&A実行後、思ったように業績を伸ばせない傾向があります。勿論、細かい調査も必要ではありますが、「木を見て森を見ず」といった状態に陥らないことが重要です。
一方の譲渡企業は、「情報開示が最大の保身」ということを肝に銘じていただき、ネガティブ事項を含む積極的な情報開示をお願いしたいところです。

文=中井裕介(弊社コンサルタント)