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M&Aガイド

経営課題を解決する戦略的M&A「戦略的M&Aと、その効果とは?」

戦略的M&Aとその効果とは

「経営課題を解決する戦略的M&A」では、自社の飛躍的な成長の実現に向け、M&A(企業買収)を戦略的に活用するために必要な知識をガイドします。
そして本記事では、多くの企業が直面する経営課題に触れ、課題を解決するための成長戦略を実行する手段としてM&A(企業買収)を採用するメリットを解説します。
 

企業が抱える経営課題と解決の方向性

企業の経営者は、様々な経営課題を抱えていますが、ここでは多くの企業に共通する経営課題と、その解決の方向性について解説します。

既存マーケットにおける自社のシェアが低い

マーケットにおいて、競合との価格競争などが激化し、自社の製品・サービスのシェアが伸ばせない、収益が安定しないなどの経営課題を抱えているような状態があります。
その場合、既存市場におけるシェアを拡大し収益を安定させることが求められます。

既存のマーケットだけでは今以上の成長が難しい

強い商品やサービスで、マーケットのシェアを一定程度確保した結果、市場拡大の余地が限られている、飽和状態に陥ってしまったというような経営課題があります。
その場合、新たなマーケットに進出する必要が求められます。

既存マーケットのニーズに対応できていない

技術革新や顧客ニーズの変化が目まぐるしく変化する業界にいるなど、自社が提供する今現在の商品やサービスでは、マーケットが求めるニーズに対応できないといった経営課題を抱えている場合があります。
その場合、自社の競争力を向上させるための新しい製品・サービスの開発が求められます。

サプライチェーンにボトルネックがある

自社製品・サービスの調達から流通までを含め生産体制、販売体制に非効率な箇所があり、品質・コスト・納期などで市場における競争優位を築くことができない、サプライチェーンのどこかにボトルネックを抱えているといった経営課題があります。
その場合、ボトルネックとなっている部分を解消する仕組みが必要になります。

特定の事業領域への依存が強い

市場の変化が激しい業界においては、単一の事業領域に依存してしまっていると、リスクが集中してしまって経営が安定しないといった課題を抱えることがあります。また、時代の変化についていけず、新たな成長機会が限られてしまうといったことが生じます。
その場合、リスクを分散し、新たな成長機会につながるような事業を始める必要があります。

経営課題の解決に向けたM&A戦略

多くの企業が抱える経営課題を解説しましたが、これらの課題を解決し企業(事業)を成長させる方法の一つとしてM&Aがあります。
M&A戦略の検討においては、「戦略的経営の父」とも呼ばれる経営学者のイゴール・アンゾフが提唱した「アンゾフの成長マトリクス」を参考にすることで、その目的や方向性を明確にすることができます。以下、「アンゾフの成長マトリクス」を参考にM&A戦略の方向性を5つに分類しました。
攻めるべき市場の新規・既存の分類と、提供する商品やサービスの新規・既存の分類から整理を行うものです。自社が取るべきM&A戦略がどれにあたるか検討してみましょう。

市場浸透型

既存市場におけるポテンシャルを持つ既存の製品・サービスの展開を拡大させ、シェアを広げる戦略です。同市場・同業種の企業を買収することで顧客基盤や販売チャネルを統合し、市場における存在感を強化。既存製品・サービスの市場浸透を加速させます。
既に成功を収めている競合他社を買収する方法と、自社よりも小規模の同業企業を連続的に買収する方法とがあります。

市場開拓型

新しい市場への販路を獲得し、新たな顧客層に対し既存の製品・サービスを展開する戦略です。別市場における同業種の企業を買収することで飽和しきった既存市場への依存から脱却し、新たな市場でのブランド力や販売ノウハウによる成長の機会を活かすことができます。
買収の対象となるのは、海外を含めた他地域の事業基盤や、大手取引先との取引口座、その他の異なる顧客層などを有している同業者です。

新製品開発型

既存市場において、新たな製品・サービスを開発、展開する戦略です。既存事業に関連する有力な商品・特許・技術などを有する企業を買収することで製品ラインナップを拡充させる、あるいは新技術を開発。既存顧客層のもつ別のニーズへの対応から競争優位性を高め、成長を実現します。
買収の対象となるのは、関連性のある製品・サービス、新規取得の難しい許認可や自社開発の難しい技術、ブランド力のある商品や事業などを有する企業です。

垂直統合型

既存事業のサプライチェーンを強化する戦略です。サプライチェーンの上流もしくは下流に位置する企業を買収することで製品・サービスの品質・コスト・納期を向上。既存市場における競争力を高め、成長を実現します。生産・供給プロセスの効果的な管理が可能となり、市場での存在感を拡大できるだけでなく、さらに需要変動への対応力向上や仕入れ力の強化などでリスクへ対処できる可能性もあります。
上流として仕入れ先の企業を買収する方法と、下流としては販売先企業を買収する方法とがあります。

多角化型

既存事業や既存市場とは異なる、新市場に新規の製品・サービスによって進出する戦略です。既存事業と異なる分野で事業展開に成功している企業を買収することで、特定の事業に依存せず、リスクの分散や収益の安定化が可能になります。また、既存の事業と関連性がある場合、技術やノウハウを組み合わせることによる新たな製品・サービス開発の可能性があります。
対象となる企業は新事業領域が既存事業と一部意味のある共通性を持つ企業と、まったく異なる領域の企業とに二分されます。

どの課題解決を目指すかによって、M&Aの戦略や対象とすべき企業も変わってきます。

アンゾフの成長マトリクスに基づくM&A戦略の整理

「アンゾフの成長マトリクス」に基づくM&A戦略の整理

戦略的M&Aのメリット

ここまで、経営課題を解決し成長を実現するためのM&A戦略の類型について解説しました。次に、成長戦略の実行手段としてM&Aを採用するメリットについて解説します。

新規事業参入に要する時間を短縮できる

買収企業にとって一番のメリットは、譲渡企業が時間をかけて築いてきた経営資源をスピーディーに獲得できることにあります。高度な技術や高品質なサービス、独自のノウハウなど、譲渡企業が培ってきた経営資源を譲り受けることで、自社でそれらをゼロから作り上げることに比べ、何倍も早く目的を達成できます。

新規事業に参入する際のリスクを軽減できる

自社で一から新規事業に参入する場合、想定していた成果が得られないリスクが存在します。
しかしM&Aにより、すでに実績を上げている企業を買収することで、新規事業への参入におけるリスクを軽減することができます。

シナジー効果を創出できる

M&Aにおけるシナジー効果とは、企業や事業同士が合わさることで単なる総和以上の相乗効果を生み出すことを意味します。M&Aにより2つ以上の企業の経営が統合されることにより、一方の企業の強みが他方の企業の弱みを補完する、業務が統合・効率化されることで生産性が向上する、同内容の業務についてナレッジが横展開される、内部統制が強化される、マーケットのシェアが大幅に高められる、などといったシナジー効果が生まれる可能性があります。それによって譲渡企業・買収企業双方の企業価値を飛躍的に高めることが期待できます。

成長戦略の実行手段としてM&Aを採用することで、リスクを軽減しつつ迅速に成長を実現できる可能性がより高まります。

経営課題の解決にM&Aという選択肢を

経営課題を解決する効果的な手法のひとつに戦略的なM&Aがありますが、ノーリスクというわけではありません。
リスクを軽減するには、将来の事業環境の変化やM&Aにより期待される事業のシナジー効果、買収後の経営体制などを十分に検討し、適切なM&A戦略を策定する必要があります。
M&A戦略の策定の段階から、多くの実績と高度なノウハウを持つM&A支援会社を活用することで、M&Aの成功確率を高めることも可能です。

監修=山本悠貴(公認会計士|株式会社わかば経営会計

参考図書
「M&A戦略の立案プロセス」木俣貴光(著)|中央経済社