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M&A支援機関の登録制度とは? 登録制となった理由や制度の詳細について

中小企業庁が2021年8月に新たにM&A支援機関登録制度を創設しました。一定の条件を満たす登録希望者は、M&A支援登録事務局のデータベースに登録されることになります。

本記事では、このM&A支援機関登録制度の基本的な内容や登録条件、ペナルティなどを解説したうえで、この制度がM&Aを依頼する中小企業やM&Aを支援する機関にとってどのようなメリットがあるのかを紹介します。

M&A支援機関について

はじめにM&A支援機関とは何なのかを整理し、次いでどのような事業者が支援業務を行っているのかを解説します。

M&A支援機関とは

M&A支援機関とは、M&Aを希望する中小企業に対して、M&Aを成立させるためのマッチング支援をはじめ、売り手企業と買い手企業との条件のすり合わせや、全工程における進捗管理などのあらゆるサポートを業務として行う機関のことをいいます。実際の支援にあたっては、ファイナンシャルアドバイザー(FA)業務や仲介業務を行うための契約を締結します。

M&A支援機関の種類

M&Aの支援業務はさまざまな機関が行っていますが、具体的には以下が代表的です。

  • M&A専門業者(仲介会社など)
  • 金融機関(銀行など)
  • 士業などの専門家(弁護士・公認会計士など)
  • M&Aプラットフォーマー(インターネットマッチングサービスなど)
  • 公的機関(事業承継・引継ぎ支援センター、商工団体など)

M&A支援機関登録制度について

M&Aの支援業務は、これまでも上述のような機関によって行われてきました。では、なぜ今回新たに登録制度が導入されたのでしょうか?

M&A支援機関登録制度創設の背景

近年、中小企業の後継者問題の解決や業務の効率化、企業の成長を図る手段としてM&Aに対するニーズが高まるにつれ、M&Aの支援業務を行う事業者の数も急激に増えています。その結果、M&Aの知識や経験が少ない事業者が乱立し、依頼企業との間でのトラブルも増えました。結果として、どのM&A支援機関に依頼すれば良いのかの選択も難しい状況となってしまいました。

そこで、この玉石混淆の状態を解消するために、一定の基準を満たした支援機関を登録し、中小M&Aガイドライン遵守を約束させ、中小企業が安心して支援機関を選ぶことができるようにすることを目的にM&A支援機関の登録制度が創設されました。創設にあたり、以下2点が公表されています。

  1. 事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)で補助を受けることができるM&A支援機関の費用は、今回登録された機関に支払った費用のみとする
  2.  

  3. 中小企業と支援機関との間で問題が起こった場合のために、中小企業等からの情報提供を受け付ける窓口を創設する

まず1.について、支援機関を利用した際の費用の補助が受けられるかどうかは、依頼する中小企業にとっては大きな問題です。今後は登録事業者が積極的に選択されることになるでしょう。

また2.については、万が一M&A支援機関との間でトラブルが生じた場合の相談窓口が公的にできたことにより、今まで以上に安心してM&Aに取り組むことができるようになるでしょう。

M&A支援機関登録制度の概要

M&A支援機関の登録制度の具体的な内容は、次のようになります。

登録に必要な要件

M&A支援機関として登録するために必要な要件のうち、主なものは以下の3点です。

1.中小M&Aガイドラインの遵守
中小企業庁が発表した中小M&Aガイドラインでは、中小企業のM&A支援業務を行う機関に対して一定の透明性や公正性を確保するために、具体的にどうすべきかの行動指針が示されています。登録を希望する機関は、このガイドラインを遵守しなければなりません。

 

2.FA・仲介業者が定める料金表(料金を定めた規程類等)の提出
どのような報酬体系となっているのかを明確にし、申請時に料金表を提出します。報酬体系に公正性が付与されるため、依頼する企業側も安心ですね。

 

3.顧客が情報提供窓口へ相談することの制限の禁止
登録支援機関にM&Aの支援業務を依頼した場合は、登録支援機関とどのような内容の契約書を交わしていたとしても、依頼した企業はなんの制約もなく情報提供窓口に相談できることになります。

さらに上記について仮に虚偽の内容を含む申請を行った場合は、登録が取り消されるだけなく、民法上および刑法上の法的責任が問われる可能性が生じることになりました。

登録の対象

今回登録の対象となるのはM&Aの支援業務を行う機関です。したがって、デューデリジェンス業務のみを行う士業などの専門家の場合は登録の対象外です。

登録後の遵守事項

登録されたFAや仲介業者に対しては、登録後、以下を遵守することが求められています。いずれも依頼する企業にとっての安心・信頼を高めるのに必要な事項です。

1.宣言
登録支援機関は、自社のホームページ上で中小M&Aガイドラインを遵守する旨を掲載する必要があります。
もしホームページなどを持っていない場合は、顧客向けの資料やパンフレットなどで、中小M&Aガイドラインを遵守する旨を掲載しなければなりません。

 

2.説明
登録支援機関が依頼企業と契約を結ぶ前には、必ず中小M&Aガイドラインを遵守していることをパンフレットなどを用いて説明しなければなりません。

 

3.報告
登録支援機関は、年度ごとに成約実績ついてM&A支援機関登録事務局へ報告しなければなりません。

登録の取り消し

登録支援機関が、以下の条件に抵触した場合は、登録が取り消されることになります。

  • 不正な方法で登録を申請した場合
  • 正当な理由なく実績報告を行わない場合
  • ホームページやパンフレットなどで、自社が中小M&Aガイドラインを遵守していることを公表していない場合
  • 中小企業などから情報提供受付窓口に相談が多く寄せられた結果、M&A支援機関として登録するのが適当ではないと判断された場合

なお、登録が取り消された場合は、その旨が公表されるだけでなく、「事業承継・引継ぎ補助金」において取り消された事業者に支援業務を依頼した企業に対しても、登録が取り消されたことが通知されることになっています。

情報提供窓口の設置

依頼した企業側がM&A支援機関に対して問題があると感じた場合の相談・通報窓口がM&A支援機関登録事務局に設置されました。

相談・通報先:M&A支援機関登録事務局
URL:https://ma-shienkikan.go.jp
E-mail:touroku-support@ma-shienkikan.go.jp
電話:03-6867-1351(10時~17時 平日のみ)

M&A支援機関登録制度のメリット

M&A支援機関登録制度は、依頼する企業にとっても、その依頼を受けるM&A支援機関にとっても、双方にもメリットがあります。

依頼企業側のメリット

M&A支援機関が登録制度になったことにより、登録を済ませた事業者は行政機関からに管理されることになります。また、問題が生じた場合の通報窓口も設置されたことにより、登録された支援機関であれば安心してM&Aの支援を任せることができるようになりました。

また、M&A支援機関に登録している事業者に依頼した場合は、その費用の一部が事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)の補助対象となります。

M&A支援機関側のメリット

M&A支援機関の登録制度は行政機関による登録制度であり、登録に際して「中小企業M&Aガイドライン」の遵守が求められるため、この制度に登録すれば支援機関としての信用力を向上させることができます。

M&A支援機関の登録件数について

M&A支援機関登録制度の公募申請期間は2021年8月24日(火)から2021年9月21日(火)に行なわれ、中小企業庁の10月15日発表によると、最終的に登録されたFAおよび仲介業者は全部で2,278件(法人1,700件、個人事業主578件)となりました。

これらの内訳は、以下のとおりです。

  • M&A専門業者・・・938件
  • 士業等専門家(デューデリジェンス業務のみを行う士業等専門家を除く)・・・789件
  • 金融機関・・・148件
  • M&Aプラットフォーマー・・・16件
  • その他・・・387件

登録支援機関の検索データベース

M&A支援機関登録事務局は、登録が完了したM&A支援機関の情報を検索するためのデータベースを公表しました。このデータベースを活用すれば、どの支援機関が登録しているのかを確認できるとともに、支援機関の社員数や会社の資本金額などの細かいデータまで閲覧することができるようになりました。

なお、検索サイトのURLは以下のとおりです。
登録機関データベース:https://ma-shienkikan.go.jp/search

まとめ

中小企業にとって、M&Aは、従業員の雇用や地域経済の基盤を守り、技術力を次世代に伝承することができるとても有効な手段です。しかし、昨今のFAや仲介業者の急激な増加は、M&A業界の混乱を招き、かえってM&Aを躊躇させてしまうケースが少なからず生じていました。

今回新たにM&A支援機関の登録制度が創設されたことにより、依頼企業側がM&A支援機関を選択しやすくなるとともに、支援機関側にとっても遵守すべきガイドラインが明確になるとともに、行政機関に登録されることによる信頼が得られやすくなりました。