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M&Aガイド

【事業承継の課題とM&A】 人・資産・情報。承継すべき3つの要素とその手法

【事業承継の課題とM&A】人・資産・情報

事業承継の意味するもの

本稿は、事業承継を考え始めた中小企業の経営者の方の参考のために、経営者の視点に立って作成しています。

事業承継の大義

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことを指します。こう言ってしまうと、後継者を誰にするかという問題なのかと、非常に単純に聞こえますが実際はそうではありません。ピーター・ドラッカーは著書「マネジメント」の中で、「草創期は、企業は一人の人間の延長である。しかし、一人のトップマネジメントからトップマネジメントチームへの移行がなければ、企業は成長どころか存続もできない。成功している企業のトップの仕事はチームで行われている。」と指摘しています。

会社は今、創業時と違い、多くのお客様、取引先、従業員や地域社会などの関係者が増えており、経済主体としての価値や公器性が高まっています。したがって、経営者が自分のやりたいようにやればよいという状態ではなくなっており、社会における自社の価値を改めて考える必要性が出てきています。このような価値の高まっている総体としての会社をしっかり引き継ぐことはもちろんのこと、その後、後継者や従業員の活躍により、会社がより発展していくことがさらに重要となってきます。つまり、事業承継によって、後継者が会社をさらに磨き、様々なステークホルダーに対し一層の価値提供ができるようになることが事業承継の大義ということになります。

経営戦略としての事業承継、戦術としての事業承継

しかしながら、実際の事業承継においては引き継ぐ相手があることであり、資質、意欲ともに経営者の要求水準を満たしている後継者の人選が必ずしも思惑通りに行くとは限りません。このとき、創業者であれば、会社の経営と所有に関する決定権を保有していることから、自身の進みたい方向に思い切った意思決定ができる立場にあります。今後の、経営環境があまりにも激しく変化し、過去に強みであった経営資源も通用しなくなる危険性がある場合、最も企業価値の高い時に売却してしまうというのも、戦略の一つになります。何としても、親族や従業員に承継したいのか、思い切って売却するのかについては戦略的な経営判断が必要となります。

また、事業承継という戦略を実行するために、いつどのタイミングで後継者候補を選び、打診し、従業員に経営交代を表明するのかといった高度な戦術も必要になります。事業承継は、自社の現在の価値、および将来の価値を勘案し、大義を意識しつつも冷静に現状を評価し、いくつかのシナリオをもって準備していく必要があります。そのうえで、事業承継を実行するまでに会社をどのような状態にしておくのか、そして身内も含めて自分以外に対してどのように経営者の本意を開示していくのかといった周到な設計が必要となってきます。

それでは、いよいよこれから実践的な話を進めて参ります。中小企業庁は、事業承継の標準的な道筋を示すために「事業承継ガイドライン」を作成し、考え方や手順について整理しています。これを見れば網羅的な推進方法や、注意点を大雑把に把握することができます。しかしながら、文字のボリュームも多くいきなり読み込むには相当の負荷があります。そこで、本稿では、事業承継ガイドラインに書かれているエッセンスをできるだけまとめてご紹介いたします。ガイドラインでは承継するものを人の承継、資産の承継、知的資産の承継に分けて考え、事業承継方法を決めることを奨めています。

事業承継のフロー

中小企業庁は事業承継ガイドラインの中で標準的な事業承継の推進ステップを提示しています。これは専門家からなる委員会の協力を得て策定した、いわば事業承継の中核的フローといったものです。事業承継に係る税理士、M&Aアドバイザーなどの専門家はこの事業承継ガイドラインを参考にして活動しています。

事業承継ガイドラインによると、事業承継は5ステップに分かれると指摘されています。

事業承継の構成要素図表1

本稿ではこれをさらに簡単に解説していきます。

事業承継の準備=プレ承継は「見える化」と「磨き上げ」のプロセスに分かれる

事業承継の必要性を認識した後、事業承継の準備段階をプレ承継と言い、「見える化」(ステップ2)と「磨き上げ」(ステップ3)を行っていきます。「見える化」とは、承継する資産の集合体として会社をとらえ、会社全体の価値を客観的に把握することです。そして後代に引き継ぐものが何であるのかを言語化、数値化し、第三者に伝えることができるようにするプロセスです。言語化、数値化してはじめて他者に説明することができ、また株価などの会社の価値換算ができるようになります。これをもとに、事業承継をスムーズに実行するための「磨き上げ」活動を行っていくのです。

それではまず見える化プロセスについてお話します。

事業承継は3要素に分解するとわかりやすい(見える化)

日頃、経営者が行っている経営は人、もの、金の経営資源をマネジメントするものといえますが、これらを後代に引き継ぐ資産の観点から概念的に整理すると

①経営権
②財務的資産
③非財務的資産 に分かれます。

事業承継の準備とは、こういった各3つの要素を見える化し、磨いていく作業と言えます。以下に、事業承継ガイドラインによる分類に従い詳しく見て行きます。

事業承継の3つの構成要素

事業承継ではそれまでの会社経営で育んできた経営資源を引き継いでいきますが、その内容は前述の通り人(経営権)、資産(財務的資産)、知的資産(非財務的資産)の3つの要素に分かれます。以下に、それぞれの要素がどのようなものか説明していきましょう。

事業承継の構成要素図表2

(事業承継ガイドラインをもとに作成)

1 人の承継

人(経営)の承継とは、わかりやすく言えば、後継者を誰にするかを指します。後継者に引き継ぐものの内実は、経営権です。経営権の及ぶ範囲は、経営ノウハウや取引先との関係構築、従業員の掌握などで、今は、現経営者1人に集中しているケースが多く見られます。したがって、後継者がこれをすべて引き継ぐことが重要です。もし、後継者ひとりで荷が重いなら、一つのチームとして経営権の内容を分解し、別の役員幹部等との間で役割を分担する必要があります。

経営者が変わったために、すぐにであれ、徐々にであれ、事業が衰退してしまったのでは事業承継の成功とは言えません。今まで経営を行ってきた経営者からすれば、それができてあたりまえのことであって、引き継げばできるだろうと思っている部分もあるかもしれません。しかし、それは現経営者自身の成長によって獲得し、当たり前にできるようになったことである可能性もあります。この点、冷静に自身のスキルを分析したうえで、引継ぎ可能なものなのかをできるだけ早急に、何人かの後継者候補に対し、課題を与え、資質のテストと成長の機会を与えてみる必要があります。

実際に、親族内承継や従業員承継において、後継者候補を選定し、経営に必要な能力を身につけさせ、また後述する知的資産を含めて受け継いでいくには 5 年から10 年以上の準備期間が必要です。これらの取組に十分な時間を割くためにも、後継者候補の選定は出来るだけ早期に開始すべきでしょう。

また、近年は親族や従業員の中から後継者候補を見つけることが困難な企業も増加してきています。このような場合において、会社や事業の社外への引継ぎ(M&A等)が、事業承継の有力な選択肢の一つとして認識されはじめています。よって、事業承継の検討に際しては親族内・従業員承継に向けて後継者の選定を行うだけでなく、状況によってはM&A等による外部の第三者への事業承継の可能性も視野に入れて検討を進めるべきでしょう。

2 資産の承継

ここで言う資産の承継とは、事業に必要となる財務的資産の引き継ぎを指します。資産に含まれるのは、株式、事業用資産である設備や不動産、運転資金や借入金などがそれに当たります。株式会社の場合では、会社の保有する資産の価値が自社株に反映されるため、株式の承継が中心となります。

親族内承継のケースでは、株式や事業用資産を贈与・相続といった形で承継すると、多額の贈与税・相続税が発生する可能性があります。税負担についても考慮し、資産の分散承継も視野に入れる必要があります。

資産の承継を構成する要素とは、具体的には下記になります。

●株式

株式会社であれば、前述のように会社保有の資産の価値は株式に包含されるので、株式の承継が中心となります。ただし、株価の評価に関しては、会社の規模、同族かどうかによって評価方式と評価額が異なってきます。
取引相場のない株式の評価|国税庁

また、評価に関して、親族内などの内部承継を行うならば、相続税対策上は株価は低いほうが承継がしやすいですが、逆に社外への承継の場合は、株価は高いほうが創業者の株式売却益が期待できるといった、事業承継の方法によって対応が変わってくる側面を持っています。

●事業を行うために必要な資産や資金

株式以外の資産とは、会社の設備や不動産などの事業用資産、債権、債務となります。これらは基本的に株価の評価に反映されているものです。しかし、経営者個人の資金を会社に貸し付けていたりなどの、会社と個人とのやりとりも含まれている可能性があり、実態の見える化が必要です。

事業用資産のうち、対象となるものは、現金・預金、受取手形・売掛金、棚卸資産(在庫)、建物・構築物・建物付属設備、機械装置、船舶、車両運搬具、工具・器具・備品、土地といったものになります。この中で、現金・預金、不動産以外は、一般動産や棚卸資産となります。

◆一般動産
一般動産とは、不動産(土地とその定着物)以外の物をいいます。パソコンなどの機器、自動車、家具、事業用の機械装置などが動産にあたります。

◆棚卸資産
棚卸資産は、販売目的で仕入れたもののまだ販売されていない商品など、在庫に該当するものになります。製造業の場合は、まだ加工されていない原材料なども棚卸資産に含まれます。財産評価を行う際、棚卸資産も資産となります。したがって、相続の対象となり、相続税の課税対象として資産を評価することが必要となります。

※資産のチェックポイントに関しては以下もご参照下さい。

M&Aでの事業承継の準備/決算書の吟味(貸借対照表)

中小企業会計に関する指針

相続財産や贈与財産の評価

また、株式・事業用資産を贈与・相続により承継する場合、資産の状況によっては多額の贈与税・相続税が発生することがあります。後継者に資金力がなければ、税負担を回避するために株式・事業用資産を分散して承継し、事業承継後の経営の安定が危ぶまれる等の可能性もあります。そのため税負担に配慮した承継方法を検討しなければなりません。

また、現経営者個人の負債や保証関係の整理・承継を行う必要があるなど、資産の承継に際して考慮すべきポイントは専門的かつ多岐にわたるため早期に税理士などの専門家に相談することをお薦めします。

3 知的資産の承継

知的資産とは財務諸表上に記載されない、会社の見えない価値を指します。これらの中には①経営理念②人材③従業員の持つ知識④技術⑤技能⑥人的ネットワーク⑦ブランド⑧特許などが知的資産に相当します。

参考までに、経済産業省では知的資産を下記のように定義しています。

-「知的資産」とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となるものです。
これは、特許やノウハウなどの「知的財産」だけではなく、組織や人材、ネットワークなどの企業の強みとなる資産を総称する幅広い考え方であることに注意が必要です。
さらに、このような企業に固有の知的資産を認識し、有効に組み合わせて活用していくことを通じて収益につなげる経営を「知的資産経営」と呼びます。

事業承継の構成要素図表3

経済産業省知的資産経営ポータルより

それでは以下に、個別の項目について見ていきましょう。

①経営理念

経営理念がなぜ知的資産なのかというと、経営理念は、単なる標語ではなく、その文中に会社の成長を支えてきた、価値観や行動様式を内包しているからにほかなりません。たとえば、「三方よし」という言葉がありますが、この理念を実践している会社は、自社の儲けのみを最優先で追求するのではなく、お客様の利益を実現した結果として、自社の利益が出るようにするという行動規範を持っています。このためバランスのとれた経営ができ、企業が地域社会に受け入れられ、支持され、長く存続しているということに繋がっています。

②人材

人材は、最近では人財という呼び方が増えてきました。会社は社長無くして成り立ちませんが、社長一人ですべてができるわけではなく、パート、アルバイトも含めた従業員の活動および、それを支えるモチベーションによって会社の全活動は成り立っているのです。すなわち、人材は会社を構成する財産の中身そのものと言えましょう。社内のほとんどの人材は、自分の仕事に愛着と誇りを持ち、それがゆえに誠実に業務に取り組んできたという側面があります。これらの従業員の精神性は必ずしも表面に出てきておらず、失ってはじめてわかるという面もあり、注意が必要です。

特に、モチベーションは生ものであり、マネジメントの仕方一つで、予想以上の成果を上げたり、一気に業績が落ちたりします。したがって、事業承継には従業員に対する十分な配慮が必要です。実際に、従業員に対する思いが、多くの経営者の事業承継の判断における重要な選択の鍵になっており、M&Aなどの第三者承継の場合は、経営者はその従業員を思う気持ちをどこかでしっかりと表明する必要があります。

③従業員の知識

②、に関連し、パート、アルバイトを含めて、創意工夫によって商品、サービスの品質を維持し、業務を最適化してきた、知識やノウハウも重要な資産です。

④技術

今までの競争力の源泉であった、会社のコアスキルを成立させる重要な資源です。そして他社にマネができない競争優位や、あるいは大きな参入障壁の素となっているものとなります。

⑤技能

技術と経験によって磨かれてきた会社全体の従業員のスキルの総和を言います。これにより、アウトプットした商品、サービスの品質を決めているものです。

⑥人的ネットワーク

有力顧客や、取引先、業界団体、省庁、自治体、教育機関、金融機関などのキーマンとのネットワークを持つことによって継続的な受注環境が成り立っている場合もあり、これも大きな資産と言えます。

⑦ブランド

地域において、「●●と言えば株式会社●●」など、純粋想起をされることによって、マーケティングコストが下がり、不景気にも販売が落ちないなどの強い競争力の源泉になっています。また、長期間使用しても壊れないなどといった、品質への評価によって顧客との信頼が形成されていることで、価格競争に巻き込まれずに済みます。

⑧特許

特許は、参入障壁となり競争優位をもたらしています。得に周辺特許を複数押さえていることにより、より強い競争力を発揮できています。

このような多様性に富んだ知的資産を正しく承継するためには、現経営者が自社の価値と強みをしっかりと理解し、後継者に伝えることが重要です。そのためには会社の過去の取り組み、沿革なども丹念にたどり、会社経営の根幹がどこにあったのかを探り出す必要があります。自社の強みや価値となってきたものを具体的な言葉や数値で提示し、後継者と共有することで知的資産の承継を強固なものとしていかなければなりません。

現実的に、中小企業においては経営者と従業員の信頼関係が事業の円滑な運営において大きな比重を占めていることが多く、そのため、経営者の交代に伴ってかかる信頼関係が喪失することで、従業員の大量退職に至った事例も存在します。このような事態を防ぐためには、自社の強み・価値の源泉が経営者と従業員の信頼関係にあることを後継者が深く理解し、従業員との信頼関係構築に向けた取組を行う必要があります。

上記のように、知的資産が会社の本当の「強み」・「価値の源泉」であることから、知的資産を次の世代に承継することができなければ、会社は競争力を失い、将来的には事業の継続すら危ぶまれる事態に陥ることも考えられます。そこで、事業承継に際しては、自社の強み・価値の源泉がどこにあるのかを現経営者が理解し、言語化し、これを後継者に承継するための取組が極めて重要です。

親族、従業員などの内部承継か、第三者に承継するかの判断のポイント

後継者決定は社内か社外かで大きく変わる

上記3つの要素からなる現在の会社という価値の総体を苦労して育んでこられた経営者からすれば、このような資産を息子や娘、あるいは親族に承継したいというのが多くの方の心情でしょう。しかしながら、後継者の資質や意欲、年齢を考えたときに難しいのであれば、それ以外の従業員が承継の候補となります。なぜなら、会社の引継ぎと言う点では、内部に精通しているため理念や、知識、技能などの資産がスムーズに引き継げるからです。

しかしながら、経営環境の変化は激しく、必ずしも過去の経営資源の延長線では今後の発展が期待できず社内承継が困難であると判断した場合は、思い切って社外承継の道を探る必要があります。

社内承継か、社外承継かの二種類のシナリオで準備を行う

時間軸で考えると、社内で承継するにしても、社外を選択するにしても、第一優先である親族が本当に後を継ぐ意思決定をしてくれるのかどうか、判断がつかないことも多いため見極めの期間が必要であり、通常の意思決定とは違った一段と慎重な対応が必要です。

そこで、社内承継、社外承継の2つの可能性について、見極めるための磨き上げプロセスが必要となってくるのです。

「磨き上げ」は、中期経営計画の策定と実施が効果的

磨き上げのためのフレームワーク

社内承継、社外承継の2つの可能性を踏まえつつ、意思決定していくためには、見える化で明らかにした3つの資産をもとに、会社の価値をどこまで高められる可能性があるのかを検討することがまず必要です。企業価値を高めるためには、改めて会社の未来に目を向ける必要があります。この時に活用して有効なのが中期経営計画の考え方のフレームワークです。中期経営計画のポイントは、現状から一定の上昇率で足元から数字を積み上げるのではなく、将来あるべき姿から逆算するバックキャスト方式で考えることです。中期経営計画のイメージがつかないという方は、同業分野に属する上場企業の公開されているwebサイト上のIR資料が参考になります。最近は、中期経営計画を公表している企業も多いのでそれをヒントにするとよいと思われます。

以下に、中期経営計画の考え方のフレームワークを提示させて頂きます。これをもとに使いやすいテンプレートを探し、記述していくとあるべき姿と課題が鮮明に整理されてきます。

事業承継の構成要素図表4

①「見える化」で明らかにしたA列の知的資産、人、財務の3つの要素の強み、弱みの分析を行う
②、①をもとに3~5年後に実現するあるべき姿を明確にする
③、①と②のC列のギャップを明らかにする。
④、③の課題をアクションレベルに分解する。
⑤、年次月次の行動計画を立て、④の課題を解決していく。

※本格的な強み弱みの分析についてはSWOT分析(強み、弱み、機会、脅威)を活用するケースが多いです。弱みを強みに変えたり、脅威を機会に変えたりする可能性を併せて検討することで、あるべき姿がより鮮明に見えてきます。SWOTのOT(機会、脅威)の部分についてはPEST(政策、経済、社会、技術)分析など戦略分析の一般的なフレームを活用して実施すると、しっかりしたものが作成できます。

※以下に、具体的な課題項目を例示していますのでご参照ください。

(1)自社の強みの明確化、弱みの改善

・今後の政策面、経済面、社会面、テクノロジーといった将来の経営環境変化を予測。業界構造の変化と、自社ポジションがどう変わっていくのか。その中で他社との差別化ポイントを明確にすることで、自社の特徴を活かすビジネスモデルの在り方を検討します。
・顧客構造に合わせた、営業戦略を策定し、販売力の強化、利益率の改善イメージを持つ。
・それに合わせて、自社の商品やブランドイメージ、顧客、人材、知的財産権やノウハウなどをどう強化していくかを考えます。
・取引先や販路の偏重を見直し、依存度の高い取引先を減らすことで、事業リスクを分散していきます。

(2)管理体制・内部統制の強化

・従業員に権限移譲を行い、オーナーしか行わない(行えない)業務を減らし、組織として、業務を行う。
・コンプライアンスを強化し、遵法体制を整える。
決算処理手続きなどに不備がないかを点検。役員体制や職務権限の明確化、職務規定の改正などを行う。

(3)資産効率の向上、財務の最適化

・不要資産(不動産や有価証券など)の処分や不良・滞留在庫の圧縮、余剰負債返済などを行い、バランスシートをスリム化します。
・売掛金等の回収サイトを早め、資金効率を高める。
・事業に必要のない資産の処分や、余剰負債の返済をする。

あるべき姿をイメージし、現実の姿とのギャップを明らかにして、改善すべき項目をリストアップし個別の事項を磨いていってあるべき姿を達成していくというのが中期経営計画の考え方です。

この中期経営計画の策定、実行プロセスを通じ、大義を持って経営を良くしていくという意識のもと、経営戦略をできるだけ従業員に開示しながら進めていくことが組織全体の幹部の意識を上げ、社員のスキル向上や社内コミュニケーションの活性化においても役立ち、磨き上げを実行することができます。

すなわち、社員が能力向上することによって、業績が向上していくというプロセスが作れたならば、社員は会社や仕事に対する意識が向上し、仮に会社を売却しても辞めない状態が作れるのです。

上述のような施策が奏功するまで、相応の時間を要するため、事業承継を考え始めたその時から、早めに中期経営計画の考え方を活用した自社の価値向上に着手することが大切です。

事業承継計画の作成

中期経営計画の考えにもとづいて、いったん課題を整理した後、磨き上げを行い、会社の価値を向上させていく過程の中で、親族もしくは従業員の社内承継が見えてきた場合は、事業承継ガイドラインで言われている事業承継計画を作成してみると、事業承継の設計がスムーズに進みます。

事業承継計画の例

事業承継の構成要素図表5

(事業承継ガイドラインより)

事業承継の方法の中で、親族内承継、親族外承継をスムーズに実施するためには、事業承継計画の作成が有効です。事業承継計画に従うことで具体的に事業承継をスケジュール化できます。

企業理念に従った中長期の経営方針に従い、承継の実施時期、そこに至るまでの後継経営者教育などの計画を立てましょう。事業承継計画書を作成するにあたっては、現経営者と後継者だけではなく、親族などとも話し合いながら周囲への理解を深めていきます。事業承継計画書の作成において必須となるのは次のような項目です。

・経営理念
・事業の中長期目標
・事業承継に係る関係者の状況
・事業承継に係る会社の現状認識
・株式・財産の分配
・後継者の現状・教育
・事業承継計画表

まとめ

世の中では、事業承継についてのテクニック論が先行していますが、そもそも事業承継とは何かに立ち返り考えると、結果として会社が存続し、発展していき社会的価値が増すという大義が最も重要であると言えます。つまり親族内、親族外の承継いずれにしても結果として会社が発展していくこと自体がもっとも好ましい承継の仕方なのです。

事業承継がバトンを渡すという行為であるならば、良いバトンの渡し方ができることによって、後代に賢明な経営者としても評価を残し、自己肯定感を高めることにもつながります。事業承継にはさまざまな形がありますが、大切なのは自社の現状分析を行い、企業の成長を実現するという課題にマッチした後継者を選択していくことです。

この際、「後継者は親族」という固定観念を振り払えば、事業の存続とさらなる成長を期待することができるようになる可能性もあります。後継者選びに悩んだら社外の後継者による事業承継という可能性を検討してみてはいかがでしょうか。会社経営者にとって事業承継は、人生において何度も経験することではありません。後継者選びを含め、状況の判断には知識と経験が必要です。思い入れのある会社の事業の安定した存続のためにも、専門の仲介・アドバイザリー業者や各種士業を活用すると安心です。

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