成約インタビュー INTERVIEW
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「金融×婚活」の異色M&A。顧客中心主義を軸に、ともに非連続的な成長を狙う

譲渡企業
買収企業
業種
サービス業
金融コンサルティング業
M&Aの目的
経営基盤の強化
事業拡大

近年、事業承継を目的としたM&Aが一般的になりつつある一方で、成長段階にある企業による戦略的なM&Aの活用も活発化しています。ビジネス環境が急激に変化する中、買収企業・譲渡企業ともに互いの経営資源を利用して非連続な成長を狙ったものです。その一例が、今回取り上げる、ブロードマインド株式会社による株式会社イノセントの子会社化です。

金融サービスを提供するブロードマインドが、なぜ異業種の結婚相談所・イノセントと手を組んだのか。大手結婚相談所連盟においてトップクラスの成婚数を誇るイノセントが、M&Aを選んだ背景とは。

ブロードマインド取締役の鵜沢敬太氏と、イノセント代表取締役の坂田啓太氏のインタビューを通して、急成長中のイノセントがあえてM&Aによる譲渡を選択した理由や、2社が目指す今後の成長戦略に迫りました。

成約インタビューvol.10

イノセント代表取締役の坂田啓太氏(左)とブロードマインド取締役・鵜沢敬太氏 (右)

「成長の起爆剤」としてM&Aを検討

婚活市場は2000年代後半以降、成長を続けています。マッチングアプリの利用者が急増する一方、結婚相談所も利用者一人ひとりに寄り添ったサポートを強みに拡大してきました。

結婚相談所業界は、大手企業が圧倒的な会員データベースを有し、中規模以下の結婚相談所は大手企業にデータベース利用料を支払ってぶら下がる「フランチャイズ」のような構造となっており、場合によっては大手からの経営指導を受ける場合もあります。イノセントも、大手結婚相談所連盟に加盟する1社です。もともと商社に勤めていた坂田氏が、「モノではなく人に関わりたい」という想いから創業しました。

イノセントの特徴は、会員の強みを引き出す運営スタイル。「仲人主導」の結婚相談所が主流の中、あえて貫いてきたのが「会員主導」のポリシーです。

「結婚相談所では、会員は仲人の助言を参考にしながら活動するのが一般的です。とはいえ、その助言には単なる経験則や感覚に基づくものも多いのが実情。会員はそれに従って、自分の容姿や性格を変えようとしたり、相手に対する条件を妥協したりするのです。私はその常識に疑問を感じました。結婚するのは、あくまで会員。ならば、会員を仲人色に染めるのではなく、会員のありのままの魅力を引き出す方が大切だと考えたのです」(坂田氏)

そこで同社は、「会員の選択をサポートする」というスタイルを確立。客観的なデータをもとに具体的な助言を提供し、それぞれの提案の良い面だけでなくリスクも併せて提示することで、会員が自ら選択しやすいようにしました。この一見「型破り」な運営スタイルが、徐々に会員の支持を集めていったのです。

また、イノセントは集客にも独自の強みを持ち、SNSやブログで積極的にコンテンツを発信し、会員の獲得につなげてきました。「マーケティング費用が限られる中での苦肉の策だった」と坂田氏。結婚相談所における実際のお見合い成立率や、会員比率の地域格差、各社で料金体系が大きく異なる理由などについて、客観的なデータに基づき論理的に説明したコンテンツは、大きな反響を呼ぶことになりました。

このような取り組みの成果もあり、初年度には数十名程度だった会員数は6年間で15倍以上まで増加。2020年度には、大手結婚相談所に加盟する2,600社超の中で、成婚数トップ10にランクインするまでになりました。

ところが業績好調の中でも、坂田氏は理想と現実のギャップに苦しんでいたといいます。

「国内トップレベルの結婚相談所を目指しているにもかかわらず、いつまでも個人事業の雰囲気が拭えませんでした。経営のコアな部分を全て私が担っており、いわばワンマン経営になっていた。私自身、経営は初めてですから、わからないことばかり。周囲に相談できる相手もおらず、突破口が見えませんでした」(坂田氏)

成長の起爆剤を求め外部にコンサルティングを依頼したこともありましたが、大きな効果はありませんでした。

そんなある日、複数の会社からM&Aの打診を受けたことで、成長戦略としてM&Aを利用することを思いつきます。「M&Aで強固なパートナーシップを結んだ企業であれば、身内として当事者意識を持って事業の相談に乗ってくれるかもしれない」と考えたのです。

そして、顧問税理士から紹介されたオンデックの支援を受けることに。オンデックの担当者と共に譲渡先を探す中で、坂田氏は担当者に全幅の信頼を寄せるようになったといいます。

「オンデックの担当者は、イノセントの事業や私の考えを深くわかってくれていました。企業との面談でも、途中から私の代わりにイノセントの魅力を熱く語ってくれて、私はもう話す必要がないのではと思うくらい(笑)」(坂田氏)

二人三脚でじっくりと譲渡先探しを進める中、出会ったのがブロードマインドでした。

「M&Aを成長の起爆剤としたかった」というイノセント代表取締役の坂田啓太氏

M&Aによって送客手段をさらに強化し、クロスセルの確度を上げたい

ブロードマインドは、顧客のライフプランに合わせ金融商品を提案するコンサルティング会社。東証グロース市場に上場しています。生命保険・損害保険、投資信託・債券・株式、住宅ローンなど、従来は個別の窓口で手続きが必要だったあらゆる金融サービスを、ワンストップで提供していることが強みです。

同社の特徴は、提携する他社からの送客を集客手段の中心に据えていることにあります。

金融サービスの検討シーンは、結婚や出産、住宅購入といったライフイベントの発生時期と重なります。そこで、ライフイベントに関わる事業を展開する企業をはじめとして業務提携を進め、顧客を紹介してもらう仕組みを整えたのです。現在、すでに数十社から送客を受けています。

しかし、ブロードマインドはこうした業務提携のみならず、M&Aの検討も進めました。その理由について、取締役の鵜沢氏はこう語ります。

「顧客と深い関係性を築いている企業とM&Aによって資本業務提携し、その事業に当社も本腰を入れてコミットすることで、クロスセルの確度を上げるモデルの構築にチャレンジしたいと考えていました。膨大な会員組織を持つ企業であっても、詳細な顧客情報を有しているとは限りません。逆に小規模の会員組織であっても、詳細な属性情報や興味関心に関する情報を持っている場合は、顧客にアプローチしやすいことがあります。M&Aのターゲットのひとつとして、会員規模の大小に関わらず顧客とのエンゲージメントが強い業種・業態を念頭に置いていました」(鵜沢氏)

そんな中、オンデックから紹介されたのが、イノセントでした。

結婚相談所はライフイベントの中でも初期に位置するうえ、顧客と密接な関係性を築きやすい特徴を持ちます。ブロードマインドにとってもシナジーが大きいと判断し、イノセント・坂田氏との面談に進むことにしました。

「送客チャネルの強化にM&Aが有効だと考えた」というブロードマインド取締役・鵜沢敬太氏

「顧客が主役」という共通の価値観

結婚相談所は大手企業の圧倒的なデータベースを利用して事業を行う構造であり、差別化が難しいという課題があります。

しかし事業モデル自体に明確な優位性を見出すことが困難な中、ブロードマインド・鵜沢氏は、まずイノセントの経営者である坂田氏個人の人柄や価値観に可能性を感じたと言います。

「結婚相談所は、特別な資格や知識が必要ない分、差別化しづらいサービスであるのは間違いありません。だからこそ、経営者自身が業界をどのように見ていて、どのような課題観を抱いているのかということが、そのまま大きな差別化ポイントになる。坂田さんの場合、『会員の個性を尊重する』という価値観が、婚活業界の中で際立っていました。また、それを実行に移す気概も持ち合わせていると感じたのです」(鵜沢氏)

それはブロードマインドとイノセント、両社の理念に共通性を見出した瞬間でもありました。

「ブロードマインドのミッションは、『金融に倫理を、人生に自由を』。金融業界は企業と顧客が持つ情報の格差が大きく、サービスの提供側が圧倒的に有利な立場を利用してビジネスを展開するという構造でした。その中で当社は、一人ひとりの顧客が自分らしい人生を歩めるように、金融という手段でお手伝いをすることを最大の目標にしています。相手の価値観を重視したコンサルティングを心がけているため、『会員が主役』というイノセントさんの思想に、当社と通ずるものを感じたのです」(鵜沢氏)

一方のイノセント・坂田氏は、「鵜沢さんが事業の運営方法に深い関心を示し、共感してくれたこと自体が大きな励みになった」と語ります。

「当社は、顧客の強みと想いを大切に事業を運営することが信条。成婚料目当てに会員の意向を置き去りにするようなことはしたくありません。その事業方針が業界内で『非効率』と言われることもあった中、話せば話すほど、ブロードマインドさんの顧客への向き合い方が当社と似ていると感じ、異業種ながら仲間意識を覚えるようになりました」(坂田氏)

事業方針への理解はもちろんですが、「成長のためのM&A」を望むイノセント・坂田氏にとって、M&Aを決意する一番の決め手は、ブロードマインドが示したイノセントの成長への深いコミットメントにありました。

同社は「自社の新規事業」として本格的に結婚相談所にコミットすることを念頭に置き、「イノセントの成長が即ち自社の成長にもつながる」というスタンスで交渉。デューデリジェンスでは、鵜沢氏と坂田氏が膝を突き合わせ、イノセントの中長期の経営計画作成に取り組む一幕もありました。

通常、クロージング前に買収企業と譲渡企業が詳細な経営計画を策定することはほとんどありません。工数のかかるセンシティブな作業に取り組んだ心境を、鵜沢氏はこう語ります。

「例えば、3年後に会員数5,000名を目指すと言うのは簡単です。しかし、どんな目標でも根拠がなければ、単なる机上の空論に過ぎず、本当に達成できるのか判断できません。坂田さんは特に成長志向が強かったので、その場しのぎの安請け合いはできなかった。ブロードマインドとしても、自社事業として取り組むからには納得のいく目標が必要でした」(鵜沢氏)

坂田氏も、共に目標を作り上げる過程で、現実的な目標を設定できたと振り返ります。ブロードマインドが当事者意識を持って真剣に向き合ってくれる様子を目の当たりにして「経営について相談できるパートナーを得た」と、坂田氏はM&Aを決意しました。

事業・組織の両面で両社ともにシナジーを実感

2023年3月に譲渡が成立してから半年足らずの2社ですが、事業・組織の両面で早くもシナジーを見出しています。

事業面では、共催セミナーを開始しました。結婚直前・直後のイノセント会員に対し、ブロードマインドが資産形成や保険に関わる情報を提供するもので、クロスセルにつながった事例も出ています。

また、ブロードマインドと連携することで、イノセントで成婚に至らなかった会員に対する支援も可能になりました。この点について坂田氏は感慨深いものがあると言います。

「中には独身で生きていくことを決心して婚活をやめる会員もいるのですが、そういった人をブロードマインドさんの金融サービスにつなげれば、引き続き将来設計を手伝うことができるわけです。結果として成婚はお手伝いできなかったとしても、将来を考えるうえで少しでもお役に立てることは素直にうれしいですね」(坂田氏)

イノセントが掲げる「5年後に会員数3,000名」の目標も、両社が連携した施策で実現までの道のりを探ることになります。

「イノセントさんの課題は、成婚した会員と接点がなくなってしまうことにありました。同社のすばらしさを知る、エンゲージメントの高い元顧客をうまく生かせなかった。しかし、これからは後ろにブロードマインドが控えていることで、成婚後も接点を持てるようになります。今後は成婚者のコミュニティを形成して家族や知り合いを紹介してもらう仕組みを作るなど、いろいろな施策を検討できそうです」(鵜沢氏)

さらに、事業面ばかりでなく、組織面でのシナジー創出も順調です。

特に坂田氏がひとりで経営判断からバックオフィスまでを担っていたイノセントにとっては、組織拡大にまつわる課題を乗り越えてきたブロードマインドの知見が大いに役立っています。

同社ではブロードマインドの人事担当者が採用支援を行い、すでに2名の入社が決定。自社だけでは到底採用できなかったと坂田氏は振り返ります。

「イノセントには採用ノウハウがなく、どのような条件でどのような人を募集すればいいのかもわかっていませんでした。ブロードマインドさんの担当者と連絡を取り合い、求人票の作成から内定までサポートいただくことで、ようやく採用にこぎつけることができたのです」(坂田氏)

給与体系や人事評価制度も、ブロードマインドの支援で確立しつつあります。

組織面のシナジーを実感しているのはブロードマインドにとっても同様です。フェーズの異なる他企業へのコミットが、社員の成長につながっているそうです。

「イノセントさんは、ブロードマインドとは全く異なるフェーズにいるため、社員にとっては普段の業務における常識が通じないことも多々あります。そのような未知の領域に挑戦する中で、社員が新たな視野を得て、実力を伸ばしていく機会にもなる。当社が目標としている『経営人材の育成』に直結し得ると感じました」(鵜沢氏)

業界の常識にとらわれず、「顧客が主役」という共通の想いでつながった両社。互いの飛躍的な成長に向けて、新たな一歩を踏み出しています。

COMMENT
オンデックからのコメント

成長戦略としてM&Aを活用する場合、特に重要となるのが「成長可能性の見極め」です。たとえ事業内容が近接していたり、経営者同士の価値観が似通っていたりしても、M&A後、互いに成長できるとは限りません。今回、両社は、相乗効果の生み出し方について検討を重ね、成長の道筋をしっかり描けたことが成功の決め手となりました。

M&Aの成立後、鵜沢氏からは「オンデックの担当者はいつも当社の意見を尊重してくれました。だからこそ、いつも本音で相談できた」という言葉をいただきました。

両社の「顧客が主役」という考えは、オンデックの理念にも通じるもの。譲渡企業と買収企業の双方に寄り添ったM&A支援を心がけています。M&Aによる成長戦略を検討されるなら、まずはオンデックまでご相談ください。

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