成約インタビュー INTERVIEW
譲渡企業インタビュー
保険業

事業の承継と成長にM&Aを積極活用。セカンドライフも豊かにする保険業のM&A

譲渡企業
買収企業
業種
保険業
小売業
M&Aの目的
後継者問題の解決
経営基盤の強化
事業の拡大

M&Aによる事業承継にネガティブな印象を抱いている経営者も少なくありません。しかし、近年ではM&Aによる事業承継を選択する中小企業は増加傾向にあり、M&Aが事業の成長に繋がった事例もあります。

大阪府を中心に4つの保険代理店を展開する「ひまわり保険企画」は、M&Aによって後継者問題を解決。それを契機に事業も大きく成長させることができました。

「M&Aを前向きに捉えられるかどうかが、経営者としての人生の分かれ道」と語るのは、同社の代表取締役社長・池本啓司氏。自分の人生も見据えながら、関係者全員が幸せになれる事業承継を実現しました。今回は、理想のM&Aを叶えた池本氏に、その経緯と成功のポイントをお聞きしました。

ひまわり保険企画 代表取締役社長 池本啓司氏

保険代理店業の合併とサービス向上の蓄積によって事業が急成長

ひまわり保険企画が設立されたのは、法人代理店が増えていた2000年のこと。すでに保険の個人代理店を開業していた池本氏でしたが、同じく個人代理店を営んでいた知人と手を組み法人化しました。代理店が保険会社から受け取る手数料の比率は業績と連動するため、「組織化して規模を大きくした方が有利」という考えからでした。

当初の読み通り、ひまわり保険企画は創業から現在に至るまで右肩上がりに成長。手数料率の上昇は利益の向上に加え、事業のさらなる拡大にもプラスに作用しました。

「弊社は複数の個人代理店を合併することで顧客数を急増させてきましたが、代理店の事業主を説得する“切り札”となったのが手数料率の高さでした。個人代理店のままだと手数料率が上げづらい。一方で、弊社の傘下に収まれば私たちと同じ手数料率で販売ができる。だから『一緒に働いた方がメリットは大きい』とスカウトしたんです。互いのメリットを提示することで、多くのパートナーを得ることができました」(池本氏)

池本氏は、いくつもの代理店を訪問。信頼関係を構築して積極的に合併交渉を行いました。結果、事業規模が拡大して業績が上がり、それを受けて手数料率もさらに上昇するという好循環を創出。創業から数年で、大手保険会社から販売代理店としての最上位の評価となる「トップグレード代理店」の認定を取得するほど、大きな成長を遂げました。

もちろん、トップグレードを取得できた理由は規模の大きさだけではありません。認定の最低条件は、保険会社が定める20項目以上の審査基準をクリアすること。ひまわり保険企画は高品質なサービスと優れた組織体制を備えていました。

損害保険や生命保険などを取り扱い、顧客の要望に合った保険を提案。万が一の事故が発生した際も、丁寧かつスピーディな対応を徹底していました。営業だけでなく事務担当者も保険に関する知識を習得しており、顧客からの問い合わせにも最適な回答が可能。損害保険の継続率が約98%に達するほど顧客満足度は高く、既存顧客からの顧客紹介も後を絶たないそうです。

これらは従業員による長年の努力と、池本氏による経営手腕の賜物でした。従業員向けの金融商品の勉強会を随時開催し商品理解を促進、蓄積された顧客からの意見を月例会で共有し対応・改善策を練る、といった施策を通し会社全体でサービスの向上に努めてきました。従業員と経営者が同じ方向を向いていることが、ひまわり保険企画の強みだったのです。

池本氏は人材育成に注力。サービスの品質向上と均一化を目指し、営業担当者には保険に関する資格の取得を推奨している

60歳でのリタイアを目指し、後継者問題の解決に乗り出した

他代理店との合併と全社一丸となる社風によって成長してきたひまわり保険企画。そんな池本氏は、自身の人生にも真摯に向き合い、リタイア時期についても事前に検討していました。そしてリタイア後にやりたいことから逆算し60歳でのリタイアを決めました。

「社長業を長く営んできたのでリセットしたい気持ちがあったことに加え、3つの夢を叶えるためにも60歳でのリタイアに思い至りました。1つ目は眼科医である妻のクリニック開業を支援すること。2つ目はかつて趣味で営業していた京都のカフェを再開すること。3つ目は故郷である尾道市因島で暮らすことです。現在でも因島には頻繁に帰省していますが、ゆっくり島暮らしを楽しみながら、地域の活性化に貢献したいと思っています」(池本氏)

しかし、60歳にリタイアするとなると、すでに残り数年。実現するには、乗り越えるべき大きな壁が存在しました。それは、後継者の不在です。池本氏の親族に承継の意思がある人はおらず、事業を任せるのは不可能。また、ひまわり保険企画は池本氏を中心に組織化した経緯から氏が一人で経営を担当し、そして株式を買い取る資金力のある社員がいなかったこともあり、社内での承継も難しい状況でした。従業員は全員が営業か事務の担当者で、経営のノウハウを有した候補者はいなかったのです。

そんな状況の中、池本氏が活路を見出したのがM&Aでした。合併を繰り返して事業を大きくしてきた経緯もあり、M&Aは、自然に思い浮かんだそうです。

「ひまわり保険企画の今後を考えたら、優れた経営者に事業を委ねた方が良いと考えました。従来通り働ける環境が残るなら、従業員も喜んでくれるはず。また、私の親族にとっては株式を相続されても処理に困るだけなので、株式は売却しておくのが望ましい。総合的に考えてM&Aがベストな選択だと判断しました」(池本氏)

さっそく大手M&A支援会社に相談を持ちかけた池本氏でしたが、返ってきたのは「御社の事業規模ではお引き受けできない」という返事。代替手段は提示されたものの、顔合わせすら断られてしまったのです。

代理店の合併は行ってきたが大規模なM&Aは初めて。専門的な手続きも多いため、プロである支援会社に依頼したかったという

保険代理店業での経験を生かし、M&Aの最高のパートナーを見極めた

出鼻をくじかれたひまわり保険企画のM&Aでしたが、転機は思いがけないところから訪れました。池本氏が個人として取引している証券会社から、M&A支援会社を紹介してもらえることになったのです。

「投資信託の相談をしている中でM&Aの話になり、オンデックを紹介いただけることになりました。『手数料の価格設定が適切で、親身になってくれる』と言われましたが、大手支援会社の前例があったので『また相手にされないのでは』と半信半疑でした。ただ、実際に会ってみると、オンデックの人たちは一生懸命。私の言葉にしっかりと耳を傾けてくれ、誠実さを感じました」(池本氏)

オンデックを信頼できると思った池本氏は、M&A仲介を依頼することを決意します。

M&Aに着手するにあたって池本氏は4つの条件を掲げました。それは「従業員の雇用・処遇維持」と「得意先との取引継続」「独立性の維持」「成長戦略を期待できること」。具体的には、後者2条件を備える譲渡先として、保険代理店業を含め経営が多角化している企業をイメージしていたそうです。

「私たちの事業と営業戦略を尊重してくれる相手を希望していました。例えば、保険の加入を必要とする車や住宅などを主要な事業領域としながら、保険代理店業にも意欲がある企業などが好ましい。その上で、保険代理店業でもある程度の規模を有しているのが理想でした。私たちは何年も前から、業界内の競合から頭一つ抜きん出るための売上目標を具体的に設定し、取り組んできました。実際にこの目標額に手が届く位置まで成長しており、最後の一押しを得る手段としてもM&Aを活用したかったのです」(池本氏)

事業の今後を熟考した末の結論でしたが、見方によっては満たす相手が絞られる条件。「買収を希望する企業はいるのだろうか……」と不安になった池本氏ですが、その心配は杞憂に終わりました。途中で募集をストップするほど、多くの会社が関心を表明したのです。

そうして複数社とトップ面談を実施。うちいくつかの企業から買収の意思を示す意向表明書が届きましたが、最終的に選んだのは関西圏に拠点を置く小浦石油でした。ガソリンスタンド運営や新車・中古車販売、住まいのリフォームなど保険営業と相性が良い事業を展開しており、シナジー効果を明確に期待できたのです。

「小浦石油は保険代理店業も営んでいましたが、その拡大を手助けしてくれる“パートナー”を望んでいた点もポイントでした。特に決め手となったのは、オンデックを介したやり取りの中で、小浦社長の『これから一緒にやっていこう』という熱意に感動したことでした」(池本氏)

トップ面談時から小浦氏の人柄に好印象を抱いていた池本氏。仕事柄か、言動や立ち振る舞いから相手の本質を見抜く力に長けており、直感的に「小浦石油となら上手く協働できる」と思ったそうです。

これまで池本氏は多くの個人代理店を営む事業主の人柄を見極め、信頼できる人材のみを自らヘッドハントしてきました。人を見る目の確かさは、ひまわり保険企画の業績からも明らか。その眼力は逆の立場でも変わりません。合併する側でも譲渡する側でも、事業をともに成長させるパートナーを選ぶという点では同じ。信頼と実績がある、池本氏ならではの方法で譲渡先を選んだのです。

買収企業となった小浦石油が運営する新車販売店を訪問した際の記念撮影

M&Aを経て仕事も会社も、自分の人生も上向きになった

独占交渉権の付与などを定めた「基本合意契約」を締結後、事務手続きに多少の時間が掛かったものの、すみやかにクロージング。M&A実行から約3ヵ月が経過した2023年8月1日現在、ひまわり保険企画はますます上り調子となっています。

役員の派遣などが未実施なため、現状ではひまわり保険企画の経営体制は変わっていませんが、池本氏の呼びかけで両社の交流が図られています。ひまわり保険企画の全体会議に小浦石油の保険部を招いてノウハウを共有したり、小浦石油の新車販売部が取り扱う物件をひまわり保険企画で宣伝したりと、シナジー効果が生まれる土壌を池本氏自身も積極的に整えています。

「小浦石油では年間でかなりの数の新車を売りますし、関連事業で新規の出店も計画していると聞きます。そのなかで保険契約の獲得が見込めます。さらに、私たちが小浦石油から社用車を購入したり、小浦石油の団体保険をひまわり保険企画で契約してもらったりすれば、キャッシュフローも改善できます。両社の協働を促進すれば、これまで以上のスピードで成長できることは間違いありません」(池本氏)

当初の想定以上に成長の起爆剤となった小浦石油とのM&Aでしたが、功を奏したのは事業だけではありません。社内の雰囲気も、また変わりつつあるのです。キーとなったのは経営理念の変更でした。今回のM&Aに向けて自らの事業を見つめ直し、「仕事を通じて人と繋がる」という新理念を掲げました。その根底にあるのは「利益を出すことだけでなく、より深く人と繋がっていきたい」という想い。人と繋がり、人を支えてきた池本氏の社会人人生を色濃く反映した理念と言えます。

実際にこの理念を掲げたのはM&A実行の少し前であり、現在では少しずつ社内に浸透しています。これまでは池本氏を中心に物事が進む傾向にありましたが、理念の実現に向けて自発的に邁進する組織へと変わりつつあるのです。

M&Aを終えてさらなる経営手腕を発揮する池本氏ですが、実行直後は“燃え尽き症候群”になっていました。目標であった売上高を達成し、会社を背負う重圧からも解放。一時的にはモチベーションを失ったといいます。それが、目の前の状況の変化を受け、再び火が灯りました。

「あと1年半ほどでリタイアする予定ですが、それまでに両社が利益を上げられる仕組みを築き、後任者への引き継ぎと育成を推進。さらに、従業員が安心できるよう、ひまわり保険企画の組織体制もいっそう盤石化する。それが私の最後の仕事であり、有終の美を飾るためにも全力で取り組んでいます」(池本氏)

リタイアを直前に意気揚々。今の仕事に本気で向き合いながらも、池本氏は「違うことをやれば、人生2度おいしい」とリタイア後の生活に胸をふくらませています。最近では尾道市役所を訪ねて「町おこしで手伝えることはないか?」と働きかけるなど、以前にも増してアクティブ。奥様のクリニック経営の手伝いやカフェの運営などで、今後も「仕事を通じて人と繋がる」を実践していくそうです。

最後にM&A成功のポイントを尋ねると「物事は考え方ひとつ。だから経営から退くことをチャレンジと捉えると良い。『次の人生を楽しもう』と前向きな気持ちでM&Aに挑むのが大事でしょう」と回答。人生を謳歌する池本氏らしい、成功の秘訣を教えてくれました。

成約インタビューvol.9

リタイア後は「仲の良い人間と気楽に楽しくやれたら良い」という池本氏。一方で「仕事は人と繋がる手段。遊びというよりは部活動的な楽しさがある」とのこと

COMMENT
オンデックからのコメント

後継者問題に悩まれる経営者の中には、自身のリタイアが問題の引き金となってしまうのではとネガティブに構えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。しかし、池本氏のようにリタイアを「新たな船出」とポジティブに捉えれば、M&Aの担う役割も「変革の始まり」として捉えることができます。M&Aは後継者問題の解決だけでなく、自身と従業員の今後をより良くする手段になり得ます。

本件では、池本氏が譲渡先を選ぶ際に相手の人柄も重視したことも大きなポイントでした。M&A後の良好な関係性も、両者の相性の良さがもたらしたものでしょう。池本氏には、オンデックについて、分析が精密で助かったとお褒めの言葉をいただけました。オンデックとしては、両社の成長に携われたことが非常に光栄なことでした。

オンデックでは譲渡企業に寄り添ったコンサルティング・M&A支援を心がけ、企業の変革に向けたポジティブな姿勢を最大限に後押しします。事業承継や経営課題の解決策としてM&Aを検討している場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

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