成約インタビュー INTERVIEW
サービス業 投資業

適正な企業価値評価が奏功した急成長企業とファンドのM&A

譲渡企業
買収企業
業種
サービス業
投資業
M&Aの目的
イグジット
投資先のバリューアップ
事業承継はもちろん、企業成長の手段としてもM&Aが活用される事例が増える中、特に成長企業のM&Aにおいては、より複雑な条件調整が必要となるケースが多く見られます。

美容室チェーンA社は、事業成長の只中にある企業でしたが、オーナーのX氏は、さらなる経営体制の強化と次なる事業への挑戦を目指しM&Aを決意。譲渡価格や自らの去就、運営体制の維持・変更などの面で、さまざまな要望がありましたが、投資ファンドB社との成約に漕ぎつけました。

A社はどのようにB社と出会い、成約することができたのか。A社を担当したコンサルタントのM.D.の視点から、本件M&Aにおけるポイントを明らかにします。

本件M&Aを担当したコンサルタントM.D.

シニアコンサルタント/グループマネージャー M.D.

相談段階からM&Aの実現可能性を丁寧に検討

A社は、設立からわずか数年で首都圏に30店舗以上の出店を果たし、業績も右肩上がりに伸びていました。急成長の秘訣は、高い集客力です。業務委託契約を結んだスタイリストに施術を委託し、サービス価格を出店エリアにおける最安値に設定。それによって来店客を増加させ、低単価でも高い売上を確保していました。

しかし、会社の成長スピードに内部統制の整備が追いつかず、特にコンプライアンス面では課題も見受けられるように。マネジメント体制の強化が必要だと考えたX氏は、外部から支援を受けることを検討するようになります。

同時にX氏自身、事業がある程度形になった段階でのリタイアを模索していました。そこで、過去にオンデックでM&Aによるイグジットを実現した知人経営者を介して、オンデックにM&A支援を相談するに至りました。

ただ、当初X氏は、「この金額で譲渡したい」という条件面での目標は持っていたものの、今すぐ事業を譲渡したいというモチベーションではなく、あくまで、将来のどのタイミングで譲渡を行うのが適切かについて助言を求めていました。

相談を受けたM.D.は、目標価格の妥当性と適切な譲渡時期を見極めることに。中でもこだわったのが、企業の成長見込みを徹底的に根拠づけることでした。

「成長中の企業は、成長可能性をどの程度見積れるかで、企業価値の評価が大きく変わってきます。新型コロナウイルスの感染拡大により、店舗型ビジネスの多くが事業の継続性を危惧された時期でもあり、X氏の目標価格を達成するには、平時よりいっそう説得力のある将来計画の算定根拠が求められました」

そこでM.D.は、公認会計士としての専門的な知見や、監査法人で蓄積した経験も生かしながら、企業価値の算定に取り組みました。会社全体の売上はもちろんのこと、店舗ごとの売上から固定費と変動費の比率、採用・集客の実績、KPIの進捗まで、細かく分析。出店してから黒字化するまでの期間や、出店後の利益推移を割り出し、将来的な出店計画とかけ合わせることで精緻な成長見込みを割り出しました。

さらに、「コロナ禍という一過性の事象によって低下した業績を基準にすると、成長可能性を実際よりも低く見積もってしまう」と考えたM.D.は、日毎の売上データを一つひとつ参照するなど地道な作業を経て、コロナ禍の影響が認められる箇所を特定。新型コロナウイルスの感染拡大が業績に与える影響は少ないことを確認し、おおむね従来の成長ペースを維持できることを前提として企業価値を算出しました。

このような緻密な作業の結果、M.D.は、その時点でも目標価格での譲渡は可能だと判断し、X氏にM&Aの実行を提案します。X氏も、合理的な根拠に基づいた提案に納得し、M&Aを進める決意をしました。

本件M&Aを担当したコンサルタントM.D.

オーナーの希望を叶える買収企業探し

買収企業については幅広く検討したいというのがX氏のスタンスでした。そこでM.D.は、目標の譲渡価格を受け入れてくれそうな企業を探すことに。すでに美容室を経営している同業他社はもちろん、美容学校や化粧品メーカーなど、美容室経営への参入可能性が少しでもある企業に数多くアプローチしました。

とはいえ、X氏が求める条件や企業の特徴を深く分析するうち、M.D.には「理想の買収企業像」も浮かび上がりつつありました。

例えば、同業他社は一見、最も相性が良さそうですが、M.D.は経験上、マッチングする可能性は低いと見ていました。

「美容室のような店舗ビジネスにおいては、自社が同数の店舗を展開した場合にかかるコストを基準に、相手企業の価値を計るケースがほとんどです。だからこそ、A社ならではの成長性を加味した譲渡価格を受け入れるのは難しいだろうと予想しました」

異業種企業の方が条件に合うかもしれないという考えのもと、候補に挙げたのが投資ファンドです。投資ファンドは企業価値を高めてリターンを得るビジネスモデルのため、成長性が高い企業ならば、同業他社に譲渡するよりも譲渡価格が高くなりやすい傾向があります。

また、投資ファンドの中でもハンズオン型のファンドは、買収した企業の経営に深く関わるハンズオン支援を通し、リターンの確実性をアップさせます。経営に関する支援を受けながらも、事業運営の自由度や会社の個性を一定程度維持できる可能性もあり、経営体制を強化したいと思っていた一方で、自社で蓄積してきた集客ノウハウが流出することを懸念していたX氏のニーズとも合致しそうでした。

さっそく、いくつかの投資ファンドに買収を打診したところ、A社の成長可能性に魅力を感じた投資ファンド・B社が手を挙げました。X氏も、B社を自らの希望に合致する企業だと考え、両社の交渉がスタートしました。

美容室経営

俯瞰の視点で双方納得の着地点を見出す

X氏はM.D.に頼るだけでなく、自らもM&Aについての情報を積極的に収集。主体的な姿勢により、交渉が素早く進展する局面もありました。

一方でM&Aについての体系的な知識に基づいたものではないため、無謀な条件で破談になる可能性があったのも事実。「このままでは、交渉が決裂するかもしれない」と考えたM.D.は、X氏の要望を最大限取り入れながらも、M&A交渉の定石に照らしてB社と交渉するという難しい舵取りを迫られました。

M.D.が一番の難題だったと振り返るのが、対価の支払い方法についての交渉です。X氏は交渉時にある特定の方法での対価の支払いを強く求め、これに対して投資ファンド側が譲歩するかたちで合意。ところが、その後、自らにとってより有利な支払い方法を考え出したX氏は、さらなる変更を求めていました。

「対価の支払い方法については、X氏に有利な要望をB社に完全に呑んでいただいたものです。合意後に一方的に変更の要求をすることは信頼関係上、行き過ぎた要望にほかなりません。もちろん合理的な要望は最大限交渉しますが、行き過ぎた要望については顧客であっても再考を促すようにしています」

それは、単に破談のリスクを排除するためではなく、X氏自身が当初掲げていた本来の目標達成のために必要なことでした。

「X氏自身が、もう契約自体を望まないというのであれば、無理に進める気はありませんでした。しかし、本質的な目標を理解していたからこそ、その実現のために、行き過ぎと思われる要求にはあえて“待った”をかけ、見直しを提案することにしたのです」

根気強いやり取りを重ね、最終的にX氏が当初から希望していた譲渡価格での成約にこぎつけたM.D.。X氏からは、「一緒にやってよかった」という言葉をかけていただき、買収企業のキーマンからも「いつ連絡してもすぐに返答がもらえて助かった」との評価を得ました。

ハンズオン型ファンドによるM&Aの成立

本件M&Aを振り返って

M.D.は、今回のM&Aについて、「X氏の希望の妥当性を、俯瞰の視点で正確に検討できたこと」が成功のポイントだったと語ります。

「X氏は、譲渡価格や自らの退任、譲渡後の事業運営方針などについて、明確な希望を持っていました。だからこそ、まずは希望条件が妥当なのかを正しく評価することが重要だった。徹底的な根拠づけのもと、合理的な企業価値を算出できたことで、その後の調整の土台ができあがりました」

相手企業探しや交渉の段階では、企業同士の相性の良さやバランスを俯瞰的に捉える視点が欠かせません。A社の要望を叶えられる相手企業を幅広い候補の中から見当を付けて探し出し、両社の特性を踏まえたコミュニケーションを行うことで、双方が納得できる着地点を見出すことができたのです。

M&A後、A社は投資ファンドの経営ノウハウとリソースを活用して順調に成長。美容室向けのコンサルティングサービスを拡大するなど、M.D.が想定していた以上の相乗効果を発揮し、成長を続けています。