成約インタビュー INTERVIEW
譲渡企業インタビュー
建設業

培った技術を残し事業拡大へ。後継者問題を解決した構造設計事務所のM&A

譲渡企業
買収企業
業種
土木建築サービス業
土木建築サービス業
M&Aの目的
後継者問題の解決
事業の拡大

2022年の全国企業「後継者不在率」動向調査(帝国データバンク調べ)によると、
全国・全業種約27万社における後継者不在率は57.2%。5年連続で不在率は低下しているものの、いまだ半数以上の企業が後継者問題で悩んでいます。そんな中で、株式会社創建設計事務所はM&Aによって事業承継を実現させました。

創建設計事務所の社長である青山聖氏は「後継者問題の解決策の一つとしてM&Aが有効」と実感。後継者問題に悩む経営者に対して「事業を存続させたいのならM&Aの専門機関や支援会社に早めに相談したほうが良い」と助言します。M&Aには詳しくなかったという青山氏に、そのように考えるに至った理由をお聞きしました。

M&Aを振り返り「やって良かった」と語る青山氏

要望を叶える職人技で得意先からの信頼を獲得

建築物の土台や柱・梁などの骨組み部分を設計する「構造設計」を専門とする創建設計事務所は、1968年に東京都で創業。鉄筋コンクリート造のマンションや事務所ビルをはじめ、数万㎡もある工場や倉庫、誰もが知るような有名な宿泊施設などを設計してきました。ゼネコン(総合建設業者)と継続的な直接取引があり、安定した顧客基盤を有していました。

得意先から信頼を獲得できた理由は2つあります。1つ目は、構造設計一級建築士と一級建築士が複数在籍していること。構造設計の専門事務所としては規模が大きく、巨大な建築物や棟数が多いビルなどの構造設計に対応できるのが強みです。2つ目は、各得意先の基準に沿った経済設計ができること。長年の取引により各社が求める「安全性能とコストのバランス」の実現を得意としています。

「創建設計事務所では、長年の確かな構造設計技術でイメージをカタチにすると謳っています。構造設計は建物の企画が決まってから発注されるため、顧客の要望を実現することが大前提。その上で経済的な提案を心がけています。緻密な構造計算をすることで、鉄筋の数や柱梁の大きさに頼らずに安全性を高める。コスト面にも優れた構造設計で、顧客の期待に応えることを大切にしています」(青山氏)

創建設計事務所は顧客にとって頼れるビジネスパートナー。同時に、職人らしい一面も兼ね備えていることも特徴です。建築設計業は無から有を生み、何十年も地域に残り続ける物を造る仕事。設計理念で「構造設計は建物との出会いであり、新しい物を生み出す創造の場」と宣言するように、同社の優れた技術は妥協を許さない職人魂から生まれたものなのです。

設計した案件の一つ。「立面形状を考慮した応力を決めることや、支持層が深い地盤での杭の設計が大変だった」と青山氏

廃業の検討から一転、従業員と得意先のためにM&Aを選択

豊富な実績と確かな実力を誇る創建設計事務所ですが、後継者不在が経営上の課題となっていました。2015年に2代目社長となった青山氏は、就任してまもなく、事業の今後を懸念し始めたそうです。

「創業者は自身がリタイアする際に従業員承継を望み、当時No.2のポジションにあった私を後継者に指名しました。断って廃業に進むのも寂しいと思って引き受けましたが、すでに私は58歳。就任当初こそ仕事を覚えるのに必死でしたが、一段落した2017年頃から次の後継者について考えるようになりました。他の2名の役員や従業員には承継の意思がない。創業者および役員陣の親族は門外漢で、設計や建物の知識がなく、後継者として迎え入れるのは難しかったんです」(青山氏)

社外から優秀な経営者を招き入れる選択肢もありましたが、技術者でない人が現場で指示をすると「建築のことを知らないくせに!」という不満から、従業員の退職を誘発する恐れがありました。そもそも外部の経営者が本気で会社の将来を考えて行動してくれるかも未知数。結局、青山氏は引き継ぎ先が見つけられず、廃業が脳裏をよぎったそうです。

しかし、ある日思いがけない転機が訪れました。東京商工会議所が発行する冊子の中で、東京都事業承継・引継ぎ支援センターおよびM&Aについて知ったのです。これにより、第三者への承継を意識するようになりました。

「弊社は複数のゼネコンから業務を委託されていますし、設計から建築確認申請までを一貫して社内で対応できるスタッフがいる。こういった状況での廃業は正しい選択でない気がしていました。M&Aなら従業員の雇用を守れ、得意先にも迷惑をかけずに済む。当時は東京商工会議所への相談だけで具体的な行動は起こしませんでしたが、会社を未来に残せるならM&Aをしたいと思いました」(青山氏)

それから5年後の2022年、青山氏が65歳を迎えるタイミングで、東京都事業承継・引継ぎ支援センターへ連絡。同センターに支援会社を3社紹介してもらいました。その中で、最も印象に残ったのがオンデックだったそうです。

「オンデックの第一印象は『オフィス長を含めて全員若いな!』でした(笑)。M&Aのプロとなると百戦錬磨で年齢層も高いと想像していたため、意外だったんです。ただ、面談を始めると説明は明瞭。初回の面談時から簡易的な株価算定などを提示し、踏み込んだ話をしてくれたので、本気度が伝わってきました。若さゆえのパワーに加えて、M&Aのフェーズごとの支援やアフターフォローの徹底を明言してくれたのも信頼が置けた。私たちに寄り添ってくれると感じたので、M&Aの支援を依頼しました」(青山氏)

会長職を務めていた創業者も、最後は従業員のことを考えてM&Aを了承してくれたという

買収企業の決め手は、M&Aの本質的な目的とシナジー効果

青山氏がM&Aの条件として掲げたのは、従業員の雇用維持と得意先との取引継続。シナジー効果が得られる建築業界の企業を優先することに決めました。「本当に譲渡先が見つかるのだろうか……」と心配していた青山氏でしたが、多数の企業が関心を表明。10名近い従業員を抱える構造設計事務所の譲渡案件は希少であるため、早々に買収検討の受付を打ち切るほど引く手あまたとなったのです。

ただ、建築業界と一口に言っても業務内容は多種多様。買収候補企業の業態も様々で、中には青山氏から見て創建設計事務所を買収したい理由が見出せないような企業もありました。候補が多くて選別が難しくなるケースも少なくありませんが、青山氏と役員2名の間では選定は円滑に進んだそうです。

「譲渡後も相手先に吸収されることなく、独立して事業を続けられることが第一条件でした。加えて、買収企業との協働が具体的にイメージできることも大事だと思いました。M&Aで私たちに何を求めているのか、逆に私たちが買収企業のために何ができるのか……。互いにとって良きパートナーとなれるかも、お相手選びの判断として重視していました」(青山氏)

そうして最終的に選んだのが、建築設計から施工管理まで幅広く対応する株式会社池下設計でした。事業規模が大きく、経営基盤も強固。構造設計業務にも理解があることや、事業所が東京都内で近いこともポイントでした。

多くのシナジー効果が見込まれることも譲渡を決めた理由の一つ。池下設計は創建設計事務所より多くの取引実績があるため、池下設計経由で顧客の新規開拓が期待できました。また、クラウドでの勤務管理や実業務の可視化などを推進していることも、DX化による業務改善に取り組めていなかった創建設計事務所にとっては魅力だったそうです。

「最新設備を導入している点、譲渡後に池下設計のオフィスに移動できる点も良かった。池下設計の池下社長が若く、ハツラツとしているのも好感が持てました。他の役員2名と話しても異論はなく、満場一致で決まりました」(青山氏)

M&Aを決めて基本合意契約を結んでからは至ってスムーズでした。50年以上の歴史を誇る会社であるため、過去の資料集めはひと苦労でしたが、役員2名が青山氏の設計業務を受け持つことでバックアップ。青山氏がM&A関連の作業・手続きに集中できたことで、すみやかにクロージングを迎えることができました。

成約インタビューvol.5

青山氏と役員2名は新卒入社した生え抜き。互いを認め合う信頼関係があったこともM&Aが進捗した要因

培った技術の承継と事業の拡大が、青山氏の新しい目標

2023年5月現在、創建設計事務所と池下設計は両社を統合するためのプロセス「PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)」を実施中。M&Aをしてから間もないため事業面での具体的な連携はこれからですが、既に従業員と上層部間で顔合わせなどの交流は始まっています。経営陣をはじめ池下設計はフランクな社風であるため、青山氏は「両社の融和が早く進みそうだ」と感じています。

実際、創建設計事務所の従業員も池下設計とのM&Aに前向き。告知時点では実感が湧かない様子でしたが、職場環境が改善されることにメリットを感じている様子でした。中には「池下設計のキレイなオフィスに早く引っ越したい」と胸を躍らせている従業員もいるそうです。

無事に後継者問題を解決して肩の荷が下りた青山氏ですが、今後も創建設計事務所の役員として続投。70歳を迎える2027年までを目処に、同じく続投する役員2名とともに創建設計事務所を経営することになりました。

青山氏が続投を望んだ理由は2つ。1つ目は従業員に不信感を抱かせないため。M&A直後に経営陣が一新されると不安を煽ることにもなりかねません。2つ目は、職人ならではの想いでした。

「2代目社長として会社を未来に残すだけでなく、創建設計事務所で培われた技術も次世代に託したかった。そのためには技術を受け継いでくれる人を新たに採用する必要がありましたが、廃業が前提では人材確保は不可能。しかし、池下設計に事業承継できたことで人材を獲得して技術を伝承するという選択肢が生まれました。そういう意味ではM&Aはゴールではなくスタートなんですね」(青山氏)

心機一転して経営に取り組む青山氏は、業務の範囲と量の拡大を新たな目標に据えました。例えば、従来の体制では難しかった木造の構造設計を手がけることや、採用活動の強化による人材獲得などを検討しています。

シナジー効果への期待も少なくありません。創建設計事務所の構造設計と池下設計の生産設計(施工図)などを組み合わせることで、ワンストップでの設計業務を提案可能に。自社の事業を拡大させながら、グループとして総合設計事務所へ成長できるチャンスを得ました。

「もちろん将来のことはどうなるかわかりませんが、現状ではM&Aをして良かったと満足しています。事業の継続を望むなら、M&Aを検討するべきだと実感しました。廃業が選択肢にあったとしても、まずはM&Aの専門機関や支援会社に相談すべきでしょう。その際に重要なのが、経営が順調かつ自分の体力があるうちに行動すること。経営が悪化してからでは譲渡先も見つかりにくくなる。M&Aを望んだ際にお相手が見つからないという最悪の事態を避けるためにも、早めに動き出すのが良いと思います」(青山氏)

M&Aを経験したことで「思いもかけない景色が見えるかもしれない」と笑う青山氏。廃業による“無”を避けてM&Aが生む“有”を選んだことで、より強固な企業となって、未来に残り続けることができるようになりました。

数多くの案件について話し合ってきたオフィス。統合後は池下設計に移転する予定

COMMENT
オンデックからのコメント

青山氏が東京都事業承継・引継ぎ支援センターに相談した際、実は、ダメ元の気持ちだったそうです。しかし、良好な経営状況下で譲渡を検討したことや、構造設計事務所のM&A案件が少ないことが有利に働き、事業拡大を望む複数の企業から思いのほか関心を集めました。廃業の選択肢を残しながらも、M&Aを検討した行動力が成約を導いたといえるでしょう。

そんな青山氏はオンデックに対して「すごく真摯に対応してくれたのがありがたかったです。特に、担当コンサルタントはレスポンスが早く、質問に対して率直な回答をすることで判断基準を提示してくれました。トップ面談時も、言いたいことを言ってくださいと背中を押してくれて心強かったです」と評価してくれました。

オンデックでは譲渡企業、買収企業双方に寄り添ったM&A支援を心がけています。後継者問題にお悩みなら、まずはオンデックまで相談ください。
 
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