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M&Aガイド

【事業承継の課題とM&A】中小企業の後継者問題 承継の進まぬ理由とその解決

中小企業の事業承継が進まない理由と課題解決

後継者問題~大廃業時代の到来

本コラムは、後継者問題や事業承継を具体的に考え始めた経営者の方が、その実態を知り、どのような課題があり、親族外への承継を含めてどのような解決方法があるのかを概観できるように作成しております。

平成30年の安藤中小企業庁長官の年頭所感は、中小企業の後継者問題に最優先で取り組むという中小企業庁の意気込みを率直に伝えるものでした。
「第一に日本経済・地域経済を支える中小企業・小規模事業者の円滑な事業承継に向けた集中支援を行います。今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業全体の1/3)が後継者未定です。現状を放置すると、中小企業・小規模事業者廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性があります」。
http://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/nentouShokan/2018Year.htm

こういった中小企業庁の情報発信を契機に、日本経済新聞等大手マスコミも『大廃業時代』として特集を組むようになり、現在、後継者問題が経済的な損失に加え、産業基盤の劣化をも引き起こす、国家の危機として周知されるようになってきており、中小企業庁では、事業承継を一丁目一番地の課題として認識しています。

事業承継は本来シンプルな問題

事業承継とは企業の経営を後継者に引き継ぐことを指します。企業がその経営を長年にわたって継続していくには、経営のバトンをパスする事業承継を行うことが必要です。しかし、前述のように、日本国内の企業数の99%以上を占める中小企業経営者の高齢化が進み、後継者不足が深刻な問題となっています。そのため中小企業の後継者不足による事業承継の問題は、日本経済全体の問題と言えます。

そのような状況ですが、後継者問題を抱える経営者の多くが、事業承継に計画的に取り組めていないのが実態です。これは、事業承継は、親族内承継が前提であり親族内の問題であるという意識や、それゆえに外部に相談しにくい等の内面的な理由が挙げられます。それに加え、中小企業の経営者は、今現在、取りかかっている仕事への対応に精一杯で、事業承継を顧みる余裕がない等の外部的な理由によるところが大きいものと考えられます。事業承継は、親族内の問題にとどまらず、従業員の生活や取引先との関係等、地域社会にも大きな影響を及ぼす問題です。つまり、関係者が多いことも事業承継の検討を遅らせる大きな要因の一つになっています。

ただし、整理すると非常にシンプルで、後継者がいるのか、いないのか、もし、後継者がいない場合は、第三者への譲渡か廃業しか選択肢はありません。経営者にとって事業承継は、最後にして最大、最重要な務めであるといえます。最良の結果を得るためにも「早めに事業承継の検討に取り組むこと」が大切です。

後継者不在により廃業の危機に直面する中小企業

それでは、冒頭の問題提起に関し、中小企業庁発表の資料を参考にしながら、中小企業の事業承継問題をおおまかに掴んでいきたいと思います。
まず、平成30年度における中小企業支援策(中小企業庁資料)を見ると、 

中小企業の事業承継は喫緊の課題

① 今後10年で、245万人(日本企業の約2/3)の経営者が70歳を超える。
② ①にもかかわらず、その約50%(127万人)が後継者未定。
③ 後継者が未定のままであると、650万人の雇用喪失、22兆円のGDPを失う危険性がある

と指摘されています。(中小企業庁試算:2025年までに経営者が70歳を越える法人の31%、個人事業主の65%が廃業すると仮定した場合)

さらに別の資料では、廃業予定の企業でも3割の経営者が同業他社より業績がよく、事業の将来性も感じているという調査結果が出ています。業績が悪いわけではなく、将来性も感じられるのに休廃業に追い込まれる、その大きな理由として、事業承継がうまくいかないことが考えられます。会社経営自体は順調であっても後継者が見つからないために、廃業せざるを得ないという現実があるのです。

中小企業においては、後継者不在の状況をどのように解決していけば良いかがわからず、そのまま時間切れとなるケースも考えられます。「他者に引き継ぎたい」と思いながらも、親族や従業員といった身近な対象者の範囲の中で後継者を探しあぐねた結果、廃業に追い込まれている様子が見えてきます。

以下では多くの中小企業が抱える事業承継が進まない理由について解説していきます。

88.3%が親族承継希望も、事業承継が進まない理由

ほとんどが子供や孫を候補として検討、親族外役員従業員はわずか7.9%

中小企業の経営者がもっとも事業を引き継ぎたいのは誰なのかと言えば、圧倒的に子供や孫ということになります。

「平成 28 年度中小企業・小規模事業者の事業承継に関する調査」報告書 中小企業庁 p.131
www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000223.pdf
によりますと、

問 22.問 19
(1)後継者の選定にあたり行った検討についてご回答ください(複数回答可)。
「子供や孫を候補者として検討」が 88.3%と最も高く、次いで「親族以外の役員・従業員を候補者として検討」が 7.9%、「子供や孫以外の親族を候補者として検討」が 6.9%となっている」という結果が出ています。

それでは、ほとんどの場合が子どもや孫に継がせたいと思っているのに、それが上手くいっていないのはなぜでしょうか?

知識不足、研究時間不足

子どもや親族を承継候補とする場合は、後継候補者の能力や知識、経験はもとより、後継者が円滑に事業を承継できるよう配慮し、権限移譲の方法や取引先・従業員との関係の構築、株式などの財産等の移転を考える必要があります。事業承継にはこういった知識が必要なのですが、腰を落ち着けて検討する暇がないという現実があります。

実際に、中小企業経営者は、役割分担が可能な大企業と違いあらゆる業務を一手に引き受け、決裁を行い、寸暇を惜しまず現業に集中している方が多いと言えます。隅々まで目を光らせていないと、いつ会社に危機がやってくるかもわかりません。
そこで、事業承継のことを考えている暇がないというケースが多いことが想定されます。このため、、公的機関から、事業承継や事業承継税制に関する情報提供の機会が増え、DMが送られてきても、資料に目を通す時間すらないという状況があります。したがって、具体的な準備に入ろうにも入れないといったことが考えられます。

本当は継がせたくないという気持ちが奥底にある

経営者ご自身が創業された会社は、長年にわたって苦労して築き上げてきた城のようなものです。一国一城の主となられた身としては、思い入れや愛着もあり、心底ではなかなか手放そうという気にはならないという心情が働きます。また、当然にまだまだやりたいという意欲もあり、無意識のうちに事業承継の準備を遅らせる方向に、判断のバイアスがかかってしまいます。これが良くも悪くもオーナーシップの本来の姿というものであり、何やかにやと理由をつけて検討を遅らせる要因でもあります。今や社会的な存在になった企業の公器性を考えつつ、冷静に対処していく必要があります。

親族が継ぎたがらない

経営者に子どもや親族の候補者がいる場合には、先にデータでも示したように跡を継いで欲しいと考えるのが一般的です。慣例上、息子が親の跡を継ぐのは最も妥当であり周囲からも受け入れられやすいというメリットがあります。しかし、該当の親族の方がすでに別の仕事に就いており事業を受け継ぐことに興味がないというケースもあります。特に昨今は個人が自由に人生を選んで生きることが尊重され、子どもが親と同じ道を歩むことを避けるケースも珍しくありません。自ら経営者になるより、企業の組織の下で働く道を好む人も増えています。

親族に継がせること自体に躊躇している場合

逆に、経営者の子どもで、本人に継ぎたい気持ちがあっても仕事への適性は別物です。すでに同じ会社で働いている場合でも、経営者としての能力に欠けていれば無理な承継は不幸な結果となります。親族であるという安心感から経営者教育を怠り、承継後に事業が立ち行かなくなる例も多数あります。また、仕事ができる人間が必ずしも経営者に適しているとは限らず、人心を掌握できなければ、近しい血縁関係があっても同じような経営手腕があるとは言えません。

また反対に、市場競争の激しい時代において、企業経営の厳しさを知る現経営者が、あえて親族には継がせることをためらうケースもあります。

親族内で意見が割れる

さらに、同じ親族間でも、後継者候補の子どもに対して父親と母親で意見が分かれることがあります。現経営者の父親は、自身の会社についての自信があり、経営者になることがご子息を人格的にも成長させる良い機会ととらえている傾向があります。しかし、母親は現経営者が苦労する姿を見ており、後継者が、債務を引き継ぎ、下手をすると、孫の代まで負債が引き継がれていく場合や事業が立ち行かなくなる不安を考えると、心配になり反対するということが起こったりします。

また、子どもの中で兄弟がおり、長男、次男と複数の候補が存在する場合もあります。年齢から言うと長男が順当にも関わらず、総務的な事務作業を緻密にやるのは得意だが、外交は苦手。次男は、社交的で誰からも好かれ営業面で成果を上げていて、業績が伸ばせそうだといった場合です。この時どちらを社長にすべきかと言った判断がなかなかできないといった問題もあります。

大企業のように、議決権ベースで有無を言わせず人事の主導権をとるといったことができない、中小企業においてはこういった個々のケースによって起こってくる悩みがつきません。

従業員への承継への躊躇

子どもや親族に適任者がいない場合は自社の社員への承継という手段も考えられます。親族への承継に比べ、関係者の理解に時間を費やす可能性はありますが、長期間の勤務経験を有し、社員からの信頼も厚い役員幹部等がいる場合は、経営層にとっても従業員にとっても格好の人材となり得る可能性があります。

しかしながら、役員幹部の年齢が現経営者とあまり離れていない場合は世代交代をするという事業承継の本来の効果自体が薄いということも考えられます。

また、ナンバー2の立場の方は、守りの部分を統括しているなど、社長の補完的な業務を行っているケースも多く、そのまま社長の知識能力基盤を引き継いで経営ができるかどうかについては疑問があります。そういった場合には躊躇せざるをえません。

このように、後継者候補を決めるにあたっては、企業ごとに様々な個別の事情があり、すんなりとはいかないのが現実なのです。

後継者候補決定後も、なお事業承継が進まない理由

後継者候補決定後も、なお事業承継が進まない理由

後継者の育成が難しい

後継者として育成するためには、自社の経営理念や知的資産について深く理解できるよう、学ばせなければなりません。単純に経営者の席を譲っても、これまでの経営をそのまま上手く引き継げるわけではないからです。

子どもに継がせようとする場合であれば、幼い頃から経営者としての心構えを教育できるかもしれません。しかし、成長に伴って経営者としての資質に問題があるとわかれば、そうした教育も役に立たなくなります。後継者候補に対しては、理念などの精神的な面と実務の両面において時間をかけた教育が必要となります。経営に少しは興味を持っていた親族が承継に同意したとしても、経営者となるための学びを習得するためには相当の時間を要します。

また、古参社員がしっかりと後継者をサポートしてくれるように約束を取り付ける必要もあります。後継者のお手並み拝見的なスタンスでは、成果が出るはずもなく、かえって後継者の粗探しになる可能性もあります。また古参社員が冷徹に接した場合、後継者に対して従業員全体が信頼を失うといったことにもなりかねません。もちろん、後継者が最終的に人心を掌握できるようになるためには、自身が得意な分野で古参社員以上の業績を上げることが最も効果的です。業績を上げたうえで、古参社員にしかるべき役割をお願いしていくことによってはじめて後継者のチームとしての会社が動き出すのです。

また、後継者の勘違いによる挫折にも注意する必要があります。海外の大学に留学し、MBAを取得してきたなどといった場合は、そういった知識を現場で試してみたくなるものです。しかしながら、グローバルレベルの経営事例がそのまま、中小企業の現場に通用するはずもなく、後継者が挫折をすることも考えられます。後継者はこういった試練を乗り越える必要があります。

このように後継者の育成には多くの時間を要するため、自らが引退を考える年齢となっても後継者の育成ができない、あるいは育成が追い付かないという悩みを抱えた経営者は多いようです。

後継者への株式等財産の承継

株式を始めとした財産の承継には大きな負担があります。具体的には、税負担への対応ということになり、親族内承継においては、先代経営者から後継者に対し、株式や事業用資産を 贈与・相続により移転する方法が用いられています。この場合、贈与税・ 相続税の負担が発生し、この時の、事業承継直後の後継者には資金力が不足することが多いという実態があります。

また、事業承継に向けた準備を進める経営者・後継者が知っておくべき基本的な制度も数多くあります。

暦年課税制度、相続時精算課税贈与、小規模宅地等の特例、退職金が相続税の対象となるケース、など様々な税務知識などが必要となってきます。特にこういった中でも、事業承継を円滑にするための優遇制度、いわゆる事業承継税制は事業承継の検討上知っておくべきです。

参考:事業承継ガイドライン P42
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2016/161205shoukei1.pdf

事業承継税制の改正があってもなお躊躇

前述の事業承継税制について、中小企業の事業承継問題の解消に向けて、平成30年から事業承継税制の大幅な見直しが実施されました。税制の適用条件の緩和によって、事業承継を考えている中小企業経営者が、より利用しやすくなっています。

http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2018/180402shoukeizeiseigaiyo.pdf

事業承継税制の改正では、平成30年から10年間に限り拡充され特例措置が設けられています。参考までに改正の概要としては次の通りです。

(1)対象株式数・猶予割合の拡大

【改正前】
納税猶予の対象になる株式数には2/3の上限があり、相続税の猶予割合は80%。後継者は事業承継時に多額の贈与税・相続税を納税することがある。
【改正後】
対象株式数の上限を撤廃し全株式を適用可能に。また、納税猶予割合も100%に拡大することで、承継時の税負担ゼロに。

(2)対象者の拡大

【改正前】
税制の対象となるのは、一人の先代経営者から一人の後継者へ贈与・相続される場合のみ。
【改正後】
親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継も対象に。中小企業経営の実状に合わせた、多様な事業承継を支援。

(3)雇用要件の弾力化

【改正前】
税制の適用後、5年間で平均8割以上の雇用を維持できなければ猶予打切り。人手不足の中、雇用要件は中小企業にとって大きな負担。
【改正後】
5年間で平均8割以上の雇用要件を未達成の場合でも、猶予を継続可能に(経営悪化等が理由の場合、認定支援機関の指導助言が必要)。

(4)新たな減免制度の創設等を行う

【改正前】
後継者が自主廃業や売却を行う際、経営環境の変化により株価が下落した場合でも、承継時の株価を基に贈与・相続税が課税されるため、過大な税負担が生じうる。
【改正後】
売却額や廃業時の評価額を基に納税額を計算し、承継時の株価を基に計算された納税額との差額を減免。経営環境の変化による将来の不安を軽減。

事業承継税制の改正により、中小企業の置かれている現状に即した支援策となっています。現経営者、後継者ともに事業承継時と事業存続の将来性についての不安を軽減することで、中小企業の事業継続がより容易になることが期待されていました。

ところが、なお新制度の利用をためらう経営者が多いのも事実です。それは、税優遇の濫用を防ぐため、自分の子がその先の孫にまで事業を引き継いだ時点で、ようやく課税が免除される点です。

借入金・債務保証の引継ぎ

さらに、経営者が事業承継を行うにあたっては、株式以外にも、債務・保証・担保等 の円滑な承継も行わなければなりません。会社が負っている債務は会社が負い続けるのは当然のことですが、経営者個人が借入れを行って会社に貸付けている場合や、会社の借入れについて個人(連帯)保証を提供している場合、自己所有の不動産等を担保に提供していることも多く、これらへの対応が必要になります。対応を行わない場合は、事業承継後も現経営者がそれらの負担を追い続けることとなり、相続が発生した場合にはその債務を相続人の間でどのように負担するのかという新たな問題が発生します。例えば、現経営者が個人で事業用資金を借り入れており、当該借入債務を相続する際に後継者が単独で引き受けようとしても、これには金融機関等の債権者の同意が必要となります。従って、将来の相続時のリスクを回避するため、事業承継時に現経営者から後継者へ、事業用資金の借入債務や担保に供している事業用資産も併せて承継しておく必要があります。債務・保証・担保については、その処理を確実に行わなければ、円滑な事業承継の実現が困難となるばかりか、こういった負担が重荷となり、後継者が承継を断念することもあります。

これらに関して、経営者保証を外す取り組みである、「経営者保証ガイドライン」については、肝心の経営者の認知度が約半分(平成29年度時点)で、そのうち過去の経営者保証を外すことができる可能性があることについては4割程度しか知られていないのが実態です。事業承継に向けて、経営改善等を通じた資金繰りの改善により債務の圧縮を図りながら、金融機関との信頼関係を構築することが重要となります。

経営者保証に関するガイドライン
http://hosyo.smrj.go.jp/index.html
参考:事業承継ガイドライン P.55
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2016/161205shoukei1.pdf

既存の従業員への承継は難しい

子どもがいない場合や、事業を任せられる親族がいない場合、長期にわたり会社に貢献してくれた信頼のおける従業員に承継させたいと考え、本人も内々に承諾している場合もあります。しかし、現実には従業員への承継は非常に難しいと言えます。従業員への承継の場合、親族のように相続という形にできません。このため、事業承継をするためには自社株の買取資金を従業員が自ら調達する必要があります。どれほど小さな会社であっても事業を行っている以上は、個人が簡単に買い取れるような金額ではないのが普通です。

中小企業の場合、会社の借入金の債務保証は経営者個人の名義となります。これまで会社の従業員であった親族外の人物に対し、金融機関に現経営者から保証人の切り替えを認めてもらうことはかなりの難関です。同じく現経営者個人が担保提供を行っている場合も、担保を解除することは困難です。従業員側としてもこれまで雇用されていた会社について、債務保証や担保提供を個人名で引き受けるには相当の覚悟が必要であり、本人だけでなくその配偶者も抵抗感を持つことが想像できます。

また、従業員として有能で、実績や経験が豊富な人であっても、必ずしも経営者としての能力に長けているというわけではありません。一社員として働いていたときには大きな戦力となっていた従業員が、会社経営を任せられたとたんに経営者としての能力を発揮できないということも十分あり得ます。

このように、従業員に承継させるためには数多くの課題をクリアする必要があります。

課題と課題解決の他の選択肢

事業承継の課題を一言で言ってしまえば、一番継がせたいと思う、子どもなどの候補者にそもそも継がせるのが難しいということに尽きます。それは、経営者の方の努力によって、家業から企業へと脱皮してこられたことにより、様々な対外的な接点も増え、会社の公器性が高まってきたという背景もあるからです。当然に、経営者の方の努力と、それによる能力向上によって、今の会社があるということです。つまり、その経営者と同じもしくは、それ以上の気概とスキルをもった人材でなければこの事業が引き継げないということなのです。

したがって、あらゆる選択肢を視野に従業員一丸となって、代替可能な体制を作っていく必要があります。このように、事業承継でご子息や親族、従業員に承継していくことは、かなりの時間と労力を伴います。

さらに、別の選択肢を考えると事業承継には他にはどのような方法があるのでしょうか?企業の世代交代を図る上で考えられる事業承継の方法には、大きく分けると他に2つの方法があります。

株式公開(IPO)

株式を上場することにより、後継者問題を解決する方法です。上場企業になると知名度や信用度の向上により有能な人材の採用が容易になり、後継者選びの幅を広げられます。しかし、上場するためには一定以上の利益の確保や内部体制の整備などを行い、証券取引所の厳しい審査を通過しなければなりません。年間でも毎年80~90社しか新規上場の承認はされておらず(東証)、一般の中小企業にとっては、現実的には非常にハードルの高い方法と言えるでしょう。しかしながら、東証も最近は市場ごとに方針を決めており、東証1部はハードルを高くする一方、マザーズなどは審査基準もハードルを低くし、年商2億規模の企業が最近上場しているように、上場数を増やしてこうと言う方針を示しています。

上場のメリットは、創業者にとっても、親族にとっても、従業員にとっても取引先にとっても喜ばれる承継方法となります。つまり、株式上場は、経営者の方が育てた会社が、単に今までの関係者だけでなく、世界中の投資家から株を買ってもらい、文字通り社会の公器になるということです。

参考までに、東証マザーズの上場基準をご紹介します。

マザーズ上場審査基準(形式要件)
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/criteria/listing/01.html

しかし、上場するよりも上場した後の株価の維持は大変であり、経営悪化した際に、創業経営者自身が株式を手放したり、再度登板せざるを得ないといったことも考えられます。

第三者への事業譲渡(M&A)

親族で後継者がなかなか決められないという問題以前に親族などに後継者がいない方も増えています。そうしたなか注目を集めているのが、株式譲渡や事業譲渡つまり、M&Aによる事業承継です。株式や事業を他の企業などに譲渡し、経営を承継することで、後継者問題が解決されるだけでなく、M&Aの相手先との協業により、経営基盤の強化や新たな事業展開のチャンスが期待できます。実際に業歴の新しい企業ほど第三者への承継が増えてきています。

グラフ-事業承継ガイドラインより

(事業承継ガイドラインより)

譲受側から見たときM&Aは時間を買う戦略であるとよく言われます。譲受側には、経営戦略があり、リスクのある状態でゼロから事業部を立ち上げるよりも、すでに人、モノ、金の経営資源がそろっており、かつ顧客基盤も、信用もある企業をすぐに保有できる方法は魅力的です。そのように関心を示してくれる会社であれば、自社を活かして成長させてくれる可能性も高いと言えます。また親族や従業員に対して承継する場合に比べ、譲受け側の会社は企業価値の評価に長けており、適正な価格で株式を譲渡でき、創業者としての利益も確保できます。

また、譲受けできるとういことは、財務体質の安定した企業であるため、従業員の雇用の心配も少ないと言えます。譲受け企業にとっても従業員に辞められては困るため、雇用の確保を重視し、譲渡契約を締結します。つまり、譲受け後に企業が発展する可能性を見越し譲受けしたわけですし、発展しないとそもそも意味がないと譲受け企業はもともと考えているのです。

まとめ

後継者選びで、親族を中心に引き継げることが経営者の希望に叶い最も好ましいと言えますが、親族、社員が難しい場合は、次の選択肢は株式公開かM&Aか、最後の手段としての廃業かとういことになります。株式公開は、前述の通りハードルは高く、会社の存続を考えるのであれば、残る選択肢はM&Aしかありません。M&Aと言ってしまうと、どうしても買収されるという昔のイメージが湧いてしまいますが、従業員や取引先のことを考えると廃業して迷惑をかけることを思えば、できるだけ会社は存続する方法を選択したほうがより好ましいと言えるのではないでしょうか。

また、せっかく苦労して育て上げてきた会社は社会的な価値も高く、みすみす廃業してしまうのは、経営者ご自身のキャリアを無駄にしてしまうという側面もあります。そういった意味でも、会社の成長を第三者に託す方法も検討する価値があります。後継者問題を背景とした中小企業のM&Aは、今後益々拡がりを見せていくことが予想されます。また、M&Aは事業承継問題解決の手段としてだけではなく、成長戦略の一環としても考えられています。

事業承継の成功までは非常にハードな道のりです。後継者選び、後継者育成、税金対策などあらゆる角度から自社に合わせた事業承継を考えていかなければなりません。

では、どのようにすれば、この課題に対処していけるのでしょうか。最も重要なことは、会社や経営環境を直視して、「早めに事業承継の検討に取り組むこと」です。事業承継には検討段階から実行するまで複数年の期間が必要となりますので、早期に検討を始めることで、余裕を持って最適な選択肢を選ぶことが可能になります。

検討にあたっては、当事者として、親族への承継方法だけでなく、M&Aなどの事業承継の選択肢をより具体的に知る必要があります。ただし、事業承継のプロセスや内容は、非常に専門的な分野ですので、信頼のできる専門家に相談することも必要です。そのため、時間をかけて、より良い検討を進めるためにも早めに専門家と検討を開始することが重要となります。M&Aの本質は企業の発展をもたらすものです。自社の発展のためにも、事業承継を円滑に進めていくためにも、専門家のアドバイスを受けながら、計画的に進めてみてはいかがでしょうか。

>>事業承継、M&Aを理解するためのサイトまとめ(公的サイト中心に)

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