成約インタビュー INTERVIEW
譲渡企業インタビュー
製造業

投資会社への譲渡で夢の実現へ! 世界を“あたためる”手袋・バッグ製造業のM&A

譲渡企業
買収企業
業種
製造業
投資業
M&Aの目的
後継者問題の解決
経営基盤の強化
事業の拡大

  後継者問題は国内の中小企業が抱える大きな課題です。帝国データバンクの調査によると、後継者不在率は5年連続で低下しており、買収や出向といったM&Aなどによる世代交代の割合は、2022年には約20%と過去最多となりました。手袋などの生産・販売業を営む株式会社 スワニー(以下、スワニー)も、M&Aで後継者問題を解決した一社です。


長期の経営支援を伴った出資を行う株式会社 日本共創プラットフォーム(以下、JPiX)に株式を譲渡。しかも、成約から半年も経たぬうちに成長の兆しが見え始めています。事業拡大へと繋がる事業承継を実現したM&A。その経緯や成功のポイントを、スワニーの社長である板野司氏にお聞きしました。

香川県東かがわ市にあるスワニー本社

スワニー最大の強みは創業者より承継された組織文化

1937年、日本一の手袋の生産地である香川県・東かがわ市にて創業したスワニー。手袋では、開発から製造までを担う「ODM(受託開発)生産」を大手企業から委託されていることに加え、自社ブランドのスポーツグローブも展開。様々なトップアスリートに愛用されています。また、自社ブランドのキャリーバッグ「スワニーバッグ」も、シニア層を中心に多くの支持を集めています。

海外進出にも積極的で、中国やカンボジア、ベトナムに製造拠点を設立。販売拠点を設けるアメリカではスキーグローブのブランド売上ランキング1位を7年連続で達成しました。その原動力は「創業者から受け継がれた組織文化にある」と板野氏は言います。

「企業の風土は、経営者の考えをベースにしつつ社員と共に築いていくものでありますが、スワニーの創業者である三好冨夫夫妻は、お2人とも人望にあふれていました。冨夫さんはチャレンジ精神が旺盛でしたし、その奥様は温かくて面倒見が良かったんです。その精神を受け継いだスワニーは『チャレンジと愛』の会社となりました。そこに2代目社長の三好鋭郎が『分け隔てない文化』を加えました」(板野氏)

アメリカ市場を開拓したり、中国に工場を移転したりと世界進出を推進した2代目の鋭郎社長は、小児麻痺の後遺症で足にハンディキャップを抱えていました。だからこそ、身体的な特徴や国籍、年齢などによる差別がない職場環境を構築。その結果、一般社員から社長までの距離が近いフラットな風土も自然と醸成されました。

その組織文化を、3代目の板野氏は発展させます。多様な社員がいる中で全員が志を一つにして頑張っていくために、社員が主体となって15の「クレド(信条)」をつくりました。「明るい挨拶」「感謝」「グローバル」「変革」など、自分たちの「あるべき姿」を掲げ浸透させる中で、今のスワニーの組織文化ができたそうです。

「素晴らしい社員文化があるからこそ、素晴らしい製品が作れ、チャレンジが生まれます。例えば、70代80代のお客様に喜ばれているスワニーバッグは、心の温かい人でないと開発できなかったでしょう。『世界中に、あたたかさを届ける』という理念のもと、製品を通じて“心のぬくもり”を提供する。その根底となる組織文化こそスワニーの本質であり、私たちの誇りなのです」(板野氏)

成約インタビューvol.1

板野氏もチャレンジ精神が旺盛。カンボジアの工場設置など事業拡大に邁進してきた

オンデックに支援を依頼した決め手は「情熱と誠実」

代を重ねるごとに成熟した組織文化を築き、成長してきたスワニー。ただ、2019年頃から大きな課題に悩まされていました。

「2代目社長の娘婿として事業を承継して以来、13年間ニッチ市場で世界トップを目指してきましたが、事業承継の問題はいつも頭の中にありました。私には子供がいなかったし、義兄の娘にも承継の意思はありませんでした。社員承継も株式の譲渡がコスト的に難しい。また、経営者候補を育成するにしても、時間をかけて失敗したら大きな損失に繋がりかねない。ですから『事業承継は最大のリスク』だと捉えていました」(板野氏)

そんな中で板野氏が光明を見出したのがM&Aでした。きっかけは、知人の経営者が親族経営の会社を投資会社に売却したこと。「会社をM&Aできて親族が喜んでいるし、事業の業績もあがって社員はうれしそうだ」との話を聞き、M&Aを行う決意を固めました。

「後継者問題の解決だけでなく、経営基盤を強化できることもM&Aの魅力でした。海外展開の強化には資金調達が必須ですし、さらなる事業の拡大には経営ノウハウを持つ優秀な人材の獲得も必要。その両方を一気に叶えられるのもM&Aの利点だと思いました。ただ、2019年当時は漠然と考えるようになっただけ。具体的な行動に至ったのは、2年後の2021年でした」(板野氏)

板野氏が60歳を目前にしたことやコロナ禍で売上が落ちたことで、M&Aに対する意欲が向上。どの支援会社に依頼すべきかと悩んでいたとき、出会ったのがオンデックでした。ある新聞社が主催するウェブセミナーで、オンデックの社長である久保の講演を聞いたことがきっかけだったそうです。

「事業承継におけるM&Aを体系的に話されており、全体感もわかりやすかった。特に印象的だったのは、投資会社には取得した株式の売却を目的とするPEファンドと、長期保有を前提とするPIがある。その2つもしくは事業会社が、M&A相手の選択肢になるという話。その説明を聞いて譲渡先は一緒に成長していける事業会社かPIが良いと具体的なイメージを持てたので、M&Aについて相談することにしたんです」(板野氏)

そうして板野氏は、オンデックの久保やコンサルタントと面談。以前から関わりのある支援会社もいましたが、オンデックに支援を依頼することに決めます。

「決め手はオンデックへの共感でした。実際にお話をさせていただいて、オンデックの方々から仕事への情熱と誠実さを感じた。その情熱と誠実さは、スワニーの柱である『チャレンジと愛』に近い。だから、直感的に任せたいと思ったんです」(板野氏)

インタビュー中に笑う板野

2代目社長の三好鋭郎氏にM&Aを相談したら後押しされたことも決め手となった

M&A成功のキーは板野氏が提案した3社定例会

譲渡企業にとっても買収企業にとっても、M&Aを成功させる上でお相手選びは重要。板野氏が最もこだわり、オンデックに最も期待したことも、やはりスワニーにとってベストな企業とのマッチングでした。

まず買収企業の条件としたのは、国際的なビジネス感覚があること。海外展開を行うスワニーにおいて欠かせない条件です。さらに、経営基盤を強化できる資本力やマーケティングのノウハウも重視しました。ただ、大前提としていたことは、スワニーの誇りである「社風の維持」でした。

「アドバイザリー契約を結んだ後、最初にしたことはスワニー本社にオンデックの方々をお招きすること。私たちの社風を理解していただいた上で、シナジー効果が生まれそうなお相手を探してほしかったんです」(板野氏)

その想いを受け取ったオンデックは、要望に沿った複数の企業を紹介。商社の投資を担う企業や海外に工場を持つアパレル会社などの中から、板野氏が選んだのはPIであるJPiXでした。

「正直に申しますと、アパレル会社のほうがシナジー効果は生まれそうでした。ただ、JPiXは当初から熱量がすごかった。情報開示した瞬間から、とてつもない量の質問がきました。独占交渉契約後にしか答えられない深い質問も多く、本気度が伝わりました。面談時にスマートさを感じたのもポイントでした。特に、JPiXの冨山和彦社長は業界でも有名。スワニーに変革をもたらしてくれると感じました」(板野氏)

買収企業が決まった後はデュー・デリジェンス(買収監査)や条件の調整を経て最終契約の締結となりますが、ここで板野氏はオンデックのコンサルタントに「スワニーとオンデック、JPiXの3社で毎週の定例会議をしないか?」と提案。結果的には、この言葉がスムーズにM&Aが進む要因となりました。

M&Aは、その規模が大きくなるほど論点が増えるため、買収企業、譲渡企業双方が直接対話したほうが交渉が円滑に進むのは自明の理。しかし、当事者同士が話すことでトラブルが発生するリスクもあり、一概に良いことであるとはいえません。ただ、言うべきことは臆さず言い合う文化があるスワニーとJPiXにはそれがフィット。両社が腹を割って話し合える場を設けたことが「M&A成功のキーとなった」と板野氏は語ります。

「ビジネスの交渉では互いの信頼が最も大切。信頼関係を築くには対話を重ねるしかないと考えました。結果的に交渉も進みましたが、何より大きかったのは相互理解が深まったことでしょう。アメリカのトップや本社の事業部長とも面談でき、スワニーに対する理解も加速されたように思います。事業について熱心に議論していく中で、私にはない視点での具体的なアイデアがすでに生まれていた。M&Aへの期待が高まっていきました」(板野氏)

北米ではトップブランドとしての知名度を有する「スワニーグローブ」

M&Aで経営者としての「夢の実現」に近づいた

クロージングに至るまでに、すでに融和の予兆があったスワニーとJPiX。実際に、成約後わずか4ヶ月で成長の兆しが見えてきたそうです。

「会社全体がにわかに活気づいています。私は1年以内の退任を予定しており、JPiXから取締役2名が派遣されてきました。彼らは改善策をどんどん提示しており、社員の心に火を点けています。今までも社員のモチベーションを高く維持するための施策を講じてきてはいましたが、今回、自然と活力が湧き出している。さっそくM&Aの効果を実感しています」(板野氏)

新しい血が運ぶ熱によって、スワニーの“体温”も確かに上昇したという板野氏。もちろん、業務面でもシナジー効果がみられています。手袋やバッグの在庫管理や会計制度の改善、事業計画の策定などの見直しによって、数字に基づいた経営体制の構築が進んでいます。

特筆すべきは、板野氏の願いであった自社ブランドの拡大戦略。今までは手袋のODMが事業の主軸でしたが、今後は高付加価値の自社ブランド商品を世界中で増やしていくことを目指しています。JPiXが有する資本力や優秀な人材、ITやブランディングの知見といった多様な支援を受けることで、板野氏の夢が現実へと近づいているのです。

「スワニーの製品は、創業から変わらない組織文化が形になったもの。手袋の中に手を入れたときの温かさ。キャリーバッグは高齢者に非常に優しく、心が温かくなる。スワニーが生むぬくもりが、世界中に届く。『世界中に、あたたかさを届ける』という理念が叶うかもしれないんです。スワニーの今後が本当に楽しみです」(板野氏)

世界情勢や為替相場の変化などに影響を受けるグローバルビジネス環境下に身を置き、社員の生活を守る責任を背負ってきた板野氏。「信頼できる企業に譲渡できて肩の荷が下りた」と安堵の笑みを浮かべながら、最後にスワニーへの想いを語ってくれました。

「私にとって、スワニーは『人を幸せにする道場』でした。商品を通じて社員やお客様、地域の人々、世界中の人々を幸せにする。そんな素晴らしいものを引き継げて、心からM&Aをして良かったと思います」(板野氏)

ただ、板野氏は“道場の真剣勝負”から退いても「今後も人を幸せにしていきたい」と言います。スワニーで培ったビジネスの知見を活かし、地域や人に貢献したいそうです。先代から引き継いだ「人を幸せにする夢」は最適な相手に託すことで実現へ。そして板野氏は新たな夢へと進む。そこにはあるのは「チャレンジと愛」。まさに、スワニーらしいM&Aとなりました。

社員と笑い合う板野氏

成約後は、「課長」など役職ではなく「さん」付けで呼び合うようにするなど、ますますフラットな組織となった

COMMENT
オンデックからのコメント

M&Aは、よく企業同士の結婚に例えられるようにお相手選びが大切です。ただ、それだけでなく、相手方への熱意や、互いをよく知るためのコミュニケーション、信頼関係を構築していくプロセスも重要です。本件では板野氏が買収企業であるJPiXを知り、相手にも知ってほしいと考え行動したことがM&Aを成功に導いたと思われます。

また、板野氏からは「担当コンサルタントが素晴らしかった。ひとりは私の不満や不安を受け止め、もうひとりはスピード感を持って課題を洗い出してくれた」とのお言葉をいただけました。オンデックではM&Aをきっかけに事業が飛躍的に成長することを念頭におき、M&Aを支援していますが、今回は、その兆しがすでに見え始めている好事例となりました。

オンデックでは譲渡企業と買収企業に寄り添ったコンサルティング・M&A支援を心がけています。事業承継や経営課題の解決策としてM&Aを検討しているなら、ぜひ気軽に相談ください。
 
板野氏と担当コンサルタントのディスカッション形式で行われた事業承継セミナーの動画はこちら
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