譲渡側の概要
A社は首都圏で、訪問看護事業と居宅介護支援事業を展開していた。
A社は、主業である訪問看護事業では地域のケアマネージャーからの紹介が多く、居宅介護支援事業では地域包括支援センターや病院など地域連携経由の受け入れが多いなど、商圏内で相応の知名度と信頼を有しており、安定的な顧客獲得を実現していた。
訪問看護と居宅介護支援それぞれで複数拠点を有していたが、各拠点とも富裕層が比較的多い地域に立地し、拠点間の距離も数キロ圏内と近接していた。それによって客層も良く、従業員の負担も減り人材確保にも好影響を与えていた。
なお、A社の代表取締役Y氏は看護師資格を持ち、各拠点間を巡回して主に従業員マネジメントを担当。X氏はA社の財務を担当していた。
譲渡側の課題
A社の課題は2点あった。
第1に、後継者が不在であったこと。オーナーのX氏には2人の子供がいたが、いずれも事業を承継する意思はなかった。また、現代表のY氏は、現場のマネジメントには長けていたものの経営に関する知見は乏しかった。X氏は年齢を考慮して遠からずリタイアを希望しており、後継者を探す必要に迫られていた。
第2に、経営基盤の強化が必要であったこと。A社は客層や立地の優位性をもとに、業界の中にあっては人材確保を比較的有利に進めていたが、それでも慢性的な人材不足によりサービス提供を断らざるを得ないことも多かった。また、訪問看護事業においては拠点を開設・運営する際には看護師の人員基準が設けられており、事業をさらに展開するには採用力の強化が必要であった。
オンデックとの出会い
X氏はA社を第三者へ承継することを考え、つきあいのある証券会社に相談。信頼できるM&A支援会社としてオンデックを紹介された。
X氏はオンデックのコンサルタントと相談の上、譲渡条件に従業員の雇用継続などを掲げた。また、A社に残る代表取締役Y氏と従業員のため、A社の経営理念「コンプライアンスを重視し、訪問看護を通じ社会貢献をする」「利用者とご家族、スタッフ、会社、地域、全てに対し最良であること」を担保できる企業への譲渡にもこだわった。
コンサルタントは、A社に残るY氏が統合後の事業方針などを直接確認できることが重要と考え、買収企業候補との面談にはY氏も同席するようアドバイスした。
買収側の概要
A社を買収したB社は、A社の商圏に隣接した地域において訪問介護事業や訪問看護事業、居宅介護支援事業などを展開していた。また、B社のグループ全体を含めると業界有数の規模を誇っていた。その知名度を活かして毎年数百名の採用を実現するなど、採用ノウハウも充実していた。
B社グループはさらなる企業発展のため事業拡大を進めており、営業エリア拡大と人員の充実を図っていた。A社の営業エリアはB社が拡大を目指すエリアと合致していた上、事業に欠かせない看護師等の有資格者がそろっていた点も魅力であった。このことから、事業戦略を実現する上でA社が欠かせないと判断し、買収へ乗り出した。
課題解決・シナジー
A社は、B社の採用ノウハウを活かし採用活動を強化できた。なお、オーナーのX氏はB社と協議の上、一定の引継ぎ期間を経て退任したが、代表取締役のY氏は留任して引き続き業務にあたっている。Y氏から従業員へ、M&A後も事業方針や理念は変わらない旨の丁寧な説明があったことで、従業員の動揺もなく従来通りの事業運営が継続できている。
B社は、注力エリアでの事業拡大に向け、採用面のみならず経営面でも、積極的にA社のサポートを続ける意向である。
本件は、M&A成立後、譲渡企業のオーナーは引退し、一方で長年にわたって現場を任されていた代表取締役は留任した事例でした。
譲渡によりオーナーのみが退任する場合、オーナーのみの考えで譲渡先を決めるのではなく、残る経営陣や従業員の意思も尊重することがM&A成功のカギとなります。
本件では、買収企業候補との面談に代表Y氏もできる限り同席したことや、買収企業の社風や統合後の事業方針などを事前に確認できるようにしたことが、M&A後のスムーズな事業統合につながりました。
オンデックは譲渡企業に残る方の思いも大切しながらM&A成立に向けて支援します。引退を考えている企業オーナー様からの事業承継のご相談をお待ちしています。