譲渡側の概要
A社は、関西圏でプラント向けの機械設備および設備用消耗部品の設計と販売を手掛けていた。自社では図面の作成や外注管理などを行い、製造は数十社に委託することで、さまざまな形状・素材の製品に対応できる体制を構築していた。
同社は設計図が残っていない消耗部品の図面を作成して、高精度の製品を供給するノウハウを有し、また、過去に作成した図面も蓄積し活用可能なため、迅速な納品を実現していた。そのため顧客の仕入れ担当者からプラント内の課題をタイムリーに相談されることが多く、高い受注率と高単価へとつながっていた。
特に、売上高の8割以上を占める大手上場企業から見積依頼を受ける場合、その9割が相見積の対象とならずにそのまま受注できる状況にあり、A社の業績は好調であった。
譲渡側の課題
A社は後継者不在という課題を抱えていた。
業務に従事しているのは代表のX氏のみであり、子供たちに承継の意思はなかった。
また、設計図が残っていない部品について、プラントでの稼働状況を勘案しながら新たに図面を作成するノウハウは属人性が高く、第三者に引き継ぐことは困難が想定された。
そのためX氏は、1年後に引退を想定していた年齢へ達するのを機に、A社を廃業しようと考えていた。
オンデックとの出会い
X氏が証券会社の担当者へ将来的な廃業の意向を伝えたところ、担当者から「廃業する前にM&Aで事業承継することも検討してみては?」とオンデックを紹介された。
オンデックのコンサルタントは、A社のような属人性が高い事業でのM&Aは成約難易度が高くなりやすいことを率直に説明したうえで、もともとX氏が廃業の時期と決めていた1年後までに限ってM&Aに挑戦してみることを提案。
X氏も、事業承継が実現すれば既存取引先に迷惑をかけずにすむと考え、M&Aに取り組むことを決意した。
買収側の概要
A社を買収したB社は、関西圏で鉄工所として創業後、プラント向けの機械加工部品や産業機械設備の商社へと業容を拡大していた。
B社はさらなる事業拡大を目指し、機械加工部品のラインナップ強化のためM&Aを検討していた。
A社についての検討にあたっては、A社事業の属人性とニッチ性が懸念され二の足を踏む場面もあったが、オンデックのコンサルタントがA社のビジネスモデルの優位性とB社とのシナジーの高さを可視化し、適切に判断できるよう情報を整理。
結果、同じ関西圏を地盤にしており、図面作成の高度なノウハウと多数の外注先を確保している点、さらにA社の主要顧客である大手上場企業がB社の大口取引先でもあった点などが決め手となり成約に至った。
課題解決・シナジー
B社は、A社に対し常務取締役を派遣しX氏の持つノウハウの吸収に努めている。消耗した部品の現物から図面を作成する知見を獲得することで、顧客の要望に対しいっそうきめ細かな対応が可能になると期待している。
X氏はB社へ顧客担当者の紹介などを行い、ノウハウの委譲に限らない幅広なフォローを実施している。B社の既存取引先であった大手上場企業についても、同氏の尽力により、これまでB社とのコネクションがなかった部署との関係構築が進んでいる。
X氏はM&A成立から約1年を引き継ぎ期間にあて、その後も顧問として側面支援を続ける予定である。
B社は新たに営業人員の採用に着手し、引き継いだノウハウを横展開するための体制づくりを始めている。
本件において、A社は、ニッチかつ非常に属人性の高い事業を運営していながら、M&Aによる事業承継に成功しました。第三者のキャッチアップが難しいA社のようなビジネスモデルであっても、専門家の支援を得ることで承継先が見つかることもあります。
属人性の高い事業の場合、承継のハードルが高くなってしまう傾向があるのは当然といえます。しかし、長年にわたり培った知見を廃業によって途絶えさせることは、社会的にも大きな損失です。廃業を考える前にM&Aによる事業承継を検討してみてはいかがでしょうか。