M&Aの基礎知識

M&Aの種類と手法

M&Aの手法は多岐にわたり、目的に合わせた設計が求められます。中小企業M&Aの主流である株式譲渡、事業譲渡それぞれの手法の特徴について、少し詳しくご説明します。

    • 手法
    • 概要
    • 中小・小規模への適合性
  • 広義

    狭義

    • 1.合併
    • 概要複数企業が一法人に統合。消滅を伴う
    • 中小・小規模への適合性 人事やシステム統合等、現場負荷高い

    二つ以上の企業が、契約により一つの企業に統合される手法。買収企業が譲渡企業の権利義務の一切を承継する「吸収合併」と、買収企業も譲渡企業も消滅して、新たな会社が引き継ぐ「新設合併」があります。

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    • 2.株式譲渡
    • 概要相対取引で既存株主から株式を譲渡
    • 中小・小規模への適合性 徐々に統合図れる。税務上のメリットも

    個人または法人が保有する株式を売買することで、株主の地位を他者に移転させる手法。株主が変更となるだけで、企業名や企業が持っている債権債務、取引先との契約関係などはすべてそのまま引き継がれます。

    メリット・優位点

    • 基本的に当事者間の合意だけで進められ、法的手続が比較的簡素
    • 株主が変わるだけで、雇用契約や対外契約の移転手続が少ない
    • 早急な経営統合が不要で混乱が少なく、中小企業に向いている
    • 譲渡人が個人株主の場合、分離課税20%で済む(現状は復興所得税が必要)

    デメリット・リスク

    • 簿外債務や過去の紛争を引き継ぐ恐れがある

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    • 3.事業譲渡
    • 概要事業用財産・組織の有機的一体を譲渡
    • 中小・小規模への適合性 承継資産・負債を限定できる

    企業の事業の全部または一部を第三者に譲渡する手法。部分的な譲渡であるため、企業の財産のうち、譲渡する資産・負債と自社に残す資産・債務を明確にする必要があります。

    メリット・優位点

    • 必要資産・負債だけを選択承継するので、簿外債務などのリスクが低い
    • 小規模事業の部分譲渡に適しており、M&Aの裾野が広がる

    デメリット・リスク

    • 譲渡対象資産の移転手続きが煩雑
    • 従業員は買収側企業に転籍となるため、個別に同意を得る必要あり
    • 事業に関連する対外的契約(取引契約など)も、すべて買収企業側への移転手続が必要
    • 買収企業は資産および、のれん部分に対して消費税が別途必要

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    • 4.会社分割
    • 概要既存又は新設会社に事業を包括承継
    • 中小・小規模への適合性 事業譲渡に近いが財産や契約移転が簡素

    個人または法人が保有する株式を売買することで、株主の地位を他者に移転させる手法。株主が変更となるだけで、企業名や企業が持っている債権債務、取引先との契約関係などはすべてそのまま引き継がれます。

    メリット・優位点

    • 基本的に当事者間の合意だけで進められ、法的手続が比較的簡素
    • 株主が変わるだけで、雇用契約や対外契約の移転手続が少ない
    • 早急な経営統合が不要で混乱が少なく、中小企業に向いている
    • 譲渡人が個人株主の場合、分離課税20%で済む(現状は復興所得税が必要)

    デメリット・リスク

    • 簿外債務や過去の紛争を引き継ぐ恐れがある

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    • 5.新株引受
    • 概要第三者割当増資、新株予約権の発行等
    • 中小・小規模への適合性 救済型で活用することが多い

    譲渡企業が既存の株主以外に新株発行を行い、買収企業が対価を支払う手法。会社の資金調達法の一つですが、株式を引き受けた企業の議決権比率が高まることから、M&Aにおいても活用されています。

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    • 6.株式交換
    • 概要株式を交換、又は持株会社に移転
    • 中小・小規模への適合性 対価は現金が多く株式譲渡と変わらない

    買収企業が譲渡企業の株式を買い取る際、現金ではなく自社の株式を割り当てる手法。買収企業は現金がなくても他社を買収することができます。譲渡企業の株主が買収企業の経営に参画することになるので、注意が必要です。

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    • 7.資本提携
    • 概要関係強化を目的に一部株式を取得
    • 中小・小規模への適合性 救済型・合従連衡で活用することが多い

    お互いが独立しながらも相手方の株式を持ち関係を強化していく手法。経営支配権を持たない10%程度の株を保有するのが一般的です。一方の企業のみが株式を保有する「資本参加」と、双方の企業が株式を保有する「相互保有」があります。

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    • 8.業務提携
    • 概要特定分野での協力関係を構築
    • 中小・小規模への適合性 資本提携と合わせて行う

    互いの利益のためにノウハウや技術を共有し、特定の分野で協力する手法。「技術提携」「生産提携」「販売提携」の3つの形態に分類できます。

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    • 9.合弁会社
    • 概要共同出資で会社設立し共同事業を行う
    • 中小・小規模への適合性 中小・小規模では指示命令系統が混乱

    複数の企業が新たに共同事業を行いたい場合に、合同で出資して会社を設立する手法。100%全額出資と比べると、投資額とリスクを抑えることができるほか、合弁相手のブランドや経営ノウハウを活用することができます。

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合併・会社分割・株式交換(株式移転)において、従来その対価の支払は、買い手企業の株式を交付による事に限定されていたが、07年から対価は現金等でも可となった。対価を株式とすることは、買収資金が不要という買い手の大きなメリットがある。しかし中小M&Aでは買い手も非上場企業であることが多く、株式の換金性が乏しいため売り手にメリットが無いため、結果的に対価は現金によることとなるケースが多い。

企業価値評価方法の種類

企業価値を評価する方法に、唯一絶対という評価方法は存在しておらず、どの方法も使用される場面は様々です。それぞれの特徴を理解し、評価目的に沿った方法を使用することが大切です。

手法 特徴 メリット デメリット
インカム・アプローチ 特徴将来期待される経済的利益を、その利益実現に見込まれるリスクなどを考慮した割引率で割引くことにより企業価値評価を行う手法。
収益を、その収益の大きさに見合った割引率で現在価値に割り引く「収益還元法」や、将来のキャッシュフローをそのキャッシュフローのリスクの大きさに見合った割引率で割り引く「DCF法」があります。
メリット
  • 限られた情報の中で手間をかけずに算出できる
  • 指標によっては(PSRなど)赤字企業であっても価値が計算できる
デメリット
  • 将来、企業がいくらキャッシュを稼ぐかという要素が入りにくい
  • 企業ごとの会計基準の違いに影響を受ける
コスト・アプローチ 特徴会社の純資産を基準に企業価値を評価する手法。
会計上の純資産額に基づいて評価を行う「簿価純資産法」と、評価対象となる企業または事業の資産・負債のすべてを時価に置き換えて純資産を評価する「時価純資産法(または修正純資産法)」があります。
メリット
  • 一定時点の純資産を評価したい場合に適している
デメリット
  • 将来、企業がいくらキャッシュを稼ぐかという要素が入りにくい
マーケット・アプローチ 特徴上場している同業他社や類似の取引事例などと比較することで、相対的に価値を評価する手法。
評価対象の企業の任意の指標の数値に係数を乗じて価値を算出することになり、類似した上場企業や目標とする上場企業などのから係数を算出する「類似企業比較法」や国税庁が財産評価のために採用している方法の「類似業種比較法」があります。なお、非上場企業の評価においては、上場している類似企業や類似業種の株価から類推する「マルチプル法」を活用することが多いです。
メリット
  • 限られた情報の中で手間をかけずに算出できる
  • 指標によっては(PSRなど)赤字企業であっても価値が計算できる
デメリット
  • 将来、企業がいくらキャッシュを稼ぐかという要素が入りにくい
  • 企業ごとの会計基準の違いに影響を受ける

マルチプル法のプロセス

  1. (1)評価対象企業に類似した企業を複数選定する。
    1. 1.所属する業界、類似する業種の上場会社をリストアップする。
    2. 2.同業種の上場会社がない場合、顧客属性や、事業構造、製品サービスの補完性などの観点から、類似会社を選択する。
    3. 3.事業戦略、ビジネスモデル、地域性、顧客層、製品構成、事業ライン、免許・許認可、規模、国際性などの観点から類似度を判別する。
  2. (2)類似企業の企業価値が、当期利益などの特定の指標の何倍になっているか(マルチプル)を計算し、平均を求める。
  3. (3)評価対象企業の特定指標に(2)で求めたマルチプルを乗じる。
  4. (4)評価対象企業の企業価値を求める。

マルチプル法で使用される指標

  • EBIT(イービット)…利払前、税引前利益
  • EBITDA(イービッダー)…利払前、税引前、償却前利益
  • PER…株価収益率(株価/一株当たり利益)
  • PBR…株価純資産倍率(株価/一株当たり純資産額)