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M&Aガイド

【M&Aの手順と詳細】② 企業の強み・弱みを分析する事業評価とは?

M&Aの手順と詳細_事業評価

1.事業評価とは

事業評価は、対象企業の事業構造を可視化し、売上・利益・キャッシュフローを継続的に生み出せる要因(若しくは生み出せずに苦しんでいる要因)を明確にする事が目的です。更に平たく言うと、対象企業の「強み」、「弱み」を分析する事が目的です。
そもそも「事業」は、「①人」、「②商品」、「③販売」、「④調達」、「⑤場所」、「⑥資金」、「⑦管理」といった要素に分解することができますが、「事業構造」とはそれら要素のいくつかが複雑に絡み合ったものを意味します。

事業構造(要素の組み合わせ)の簡単な例をいくつかご説明します。

(例1)①人+④調達 の組み合わせ

購買部長A氏の類まれなる目利き力、幅広い人脈、リスク予測能力により、当社は常に、安価で高品質な商品を、市況や自然環境が変動しても安定的に仕入れることができる。

(例2)③販売+⑤場所+⑥資金 の組み合わせ

当社は25年間、堅実に多店舗経営を行い続けた結果、キャッシュが潤沢である。併せて、多額の回転差資金が発生する業種なので、多少投資額が膨らんでも回収見込みが立てば、集客力の強い立地に新規出店することができる。新規出店・集客の際には、高額の費用をかけて広告宣伝を実施することができる。

(例3)①人+②商品+⑤場所 の組み合わせ

当社には、業界トップのB社で長年製品開発を行った経験を持つ開発部長を中心に新製品を開発するチームが存在する。そういった状況下、当社はコンスタントに年間1つは新製品を世に出しており、業界2位の地位をキープしている。製品の品質には自信があるため、今後、これまで攻め切れていなかった(売上シェア8%程度の)近畿エリアの販売先を開拓することにより、業界トップを狙える。

(例4)①人+③販売+⑦管理 の組み合わせ

当社の営業部は毎週月曜日の9時半~12時に営業会議を行っており、その場で、営業担当者別の営業先、製品別の進捗管理を行っている。進捗が滞っている場合のアクションプランも社内マニュアルとして整備されており、月次単位で、売上実績が予算を下回ったことはない。

2.事業評価の留意点

事業評価(事業構造の可視化)を行う際に気をつけないといけない事は、対象企業の内部環境・周辺環境だけではなく、関係する外部環境を含めた事業環境全体を分析・把握すべきだという事です。そのポイントは、「①川上から川下までの流れを把握する」と「②時間経過による変化を把握する」の2点です。以下、簡単にご説明します。

ポイント①川上から川下までの流れを把握する

例えば、対象企業が自動車部品の一部を製造する事業を営んでいる場合、自社及び同製品を製造している競合や販売先の自動車部品メーカーだけを分析するのではなく、部品の原材料がどこから来て、自社の製品(部品)が使用される自動車のマーケットがどうなっているのか等を把握する必要があります。その際に、一般的なフレームワークである「ファイブフォース(5F)分析」を用いると、「既存競合」、「新規参入リスク」、「代替品登場リスク」、「消費者動向」、「供給者動向」の5点の観点で、対象企業が位置する業界の全体感・流れを分析できるので効果的です。また、業界が置かれる環境に対し、対象企業がどれだけの対策を講じているのかも把握できるので、対象企業の「強み」、「弱み」が明確になります。

ポイント②時間経過による変化を把握する

経営環境、事業環境は刻々と変化します。現在は順風満帆な事業も3年後にはどうなっているかわかりません。将来起こる事は完全には読めないものの、現在得られる情報から、将来をある程度予測する事が必要です。その際にも一般的なフレームワーク「PEST分析」を用いると、「政治」、「経済」、「社会」、「技術」の4つの観点により、時間経過による環境の変化を纏める事ができます。

3.第三者が事業評価を行う際の留意点

事業売却、会社売却の目的で、M&A仲介会社やアドバイザー等の第三者が、売却対象企業の企業価値評価の一環として事業評価を行う場合、必要な対象企業の情報を収集・整理するために以下3点の手法を取ります。

会社オーナー、経営者との面談

場合によっては、キーマン従業員との面談も行う。

現地調査

調査するのは、本社事務所、営業所、店舗、工場、倉庫等。

資料精査

精査するのは、決算書、各種管理資料、取引先との契約書等。

上記3点で得られた情報を基に、事業評価を行う訳ですが、対象企業に関する情報量が少ない第三者が事業評価を行う場合、仮説を持って事に当たる事が重要です。どれだけ仮説を持って臨むかにより、情報収集の精度が変わります。

もう一点、留意すべき点は、負の情報(例えば、簿外債務、係争関係、税金滞納等)を漏らさず把握し、適切なタイミングで譲受候補企業に開示する事です。こういった情報を開示せず(故意でなくとも)、デューデリジェンス時や成約後に発覚した場合、破談や賠償問題に繋がるリスクもあります。

文=長澤育弘(弊社コンサルタント)