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M&Aガイド

【事業承継の準備とM&A】実質収益力を見抜く損益計算書のチェックポイント

M&A損益計算書の吟味

M&Aを行う際、買収企業(買い手)にとって、譲渡企業(売り手)の収益力(損益)は、購買意欲・意思決定に影響を与える重要な情報の一つです。
また、譲渡企業の収益力は、企業価値算出に使用されるケースもあり、直接的に、M&Aの取引価格に繋がる要素でもあります。M&Aの意思決定・取引価格決定において、収益力を算出する際、直近期(若しくは進行期の着地見込み)の損益計算書(営業利益)に、その期のイレギュラー要素を除外する等の修正を加えます。修正後の収益力を実質収益力と呼びます。

実質収益力の算出は、下記5点を念頭に置き、行います。

  1. 過去3~5期分の実績を考慮しつつ、直近期(若しくは進行期の着地見込み)の実績をベースに算出
  2. 一過性の売上やコスト等のイレギュラー要素を除外
  3. M&A実行に伴う社内体制変更等により増減する売上やコストを加算・減算
  4. 譲渡企業の業種特性(売上計上基準等)を考慮し、数字を分析
  5. 可能な限り、取引先別・商品別等のセグメント別損益を把握し、M&A実行に伴う事業環境の変化がどの程度、損益に影響するのかを判断

上記5点に沿い、損益計算書の主要科目について、実質収益力算出に向けた修正例を以下に記載します。
 

売上

・M&A後に、継続受注が困難なものがないか、大幅増加、減少を確定させる要素がないか確認します。例えば、「取引先との大口契約が切れる」、「競合他社や代替製品の登場で、売上の3割が棄損する見込みだ」、「法改正により、サービスを提供できなくなる」、「2店舗を新規出店する予定なので、売上が40%増加する」といったケースを確認し、修正を加えます。
・建設業やシステム開発業等は、生産リードタイムが長い業種です。売上計上金が完成基準の場合、事業年度単位で売上を見ると、年度によるブレが大きく、正確に実態が把握できないケースがあります。こういった業種の場合、過去5年程度の複数年の売上から、適正な(実質の)単年売上を算出する必要があります。
 

仕入原価

・直近期(若しくは進行期の着地見込み)の数値が過去に比べて、大きく変動している場合、過去3~5年の対売上仕入原価率(材料費率)を算出し、その平均値を目安に修正します。
・念のため、棚卸資産の増減をチェックします。棚卸資産の計上が不適切であれば、仕入原価(若しくは製造原価)との間で調整を行います。
 

役員報酬

実態(会社への貢献度等)と比して、高額の(過剰な)報酬を支払っている場合は、妥当だと思われる金額に修正します。
 

給与手当・労務費・法定福利費

M&Aに伴い退職する従業員、新たに採用、配置する従業員の給与等を加算、減算します。
 

賞与・退職金

規定を確認の上、大きなイレギュラーは除外し、過去5年程度の平均額に修正します。
 

接待交際費・旅費交通費・支払手数料等

過剰な経費、代表者等が私的に費やしている費用を洗い出し、控除します。
 

保険料

代表者が被保険者となっている生命保険等は、M&Aに伴い解約するケースが大半ですので、それら保険にかかる保険料は控除します。
 

賃借料・減価償却費・租税公課

M&Aは「不動産等の資産売却」、「事務所移転」等を伴う事が多く、それらに伴い増減する費用の修正が必要です。「事務所賃料」、「建物等の減価償却費」、「不動産にかかる固定資産税」等が対象となります。
 

文=長澤育弘(弊社コンサルタント)