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M&Aガイド

【事業承継の準備とM&A】経営・財務の実態をつかむ貸借対照表のチェックポイント

決算書の吟味(貸借対照表)のイメージ

M&Aを行う場合、譲受先に自社の決算書を開示する必要があります。譲受先は、決算書を通して、対象会社の経営や財務状況を把握し、M&Aを進めるか否か、適正な譲渡価格はどのくらいかなどの重要な決定を行います。譲受先に適切に評価されるためにも、日頃から適正な決算処理を意識するとともに、自社の状況をしっかりと把握しておくことが大切です。

決算書には貸借対照表と損益計算書がありますが、今回は貸借対照表を取り上げます。貸借対照表は、ある時点における企業の財政状態を示しており、譲受先は貸借対照表から、対象会社に、どのような資産や負債があるのか、純資産はどのくらいなのかを把握します。

しかしながら、実際には帳簿価格と時価に乖離がある資産が計上されていることや、簿外資産・負債が存在する場合も多く、必ずしも帳簿上の数値が、実態を表しているとは言えません。譲受先は実態に即した数値を基に検討を行うため、事前に帳簿と実態の差異を把握しておくことが望ましいと言えます。

以下では、実態数値を把握するための代表的なチェック項目と対応を紹介します。いずれも、譲受先から質問を受ける事項になりますので、前もって準備を行っておきましょう。

①現金・預金

≪チェック項目≫
帳簿残高と実際の残高に差異がないか。

≪対応≫
両残高の確認を行う。
 

②売上債権

≪チェック項目≫
連絡先の不明な債権や、回収の難しい債権がないか。

≪対応≫
回収不能債権の有無を確認し、ある場合は金額を把握する。
 

③棚卸資産

≪チェック項目≫
滞留している不良在庫が通常在庫の評価となっていないか。

≪対応≫
不良在庫の有無を確認し、ある場合は時価を把握する。
 

④貸付金

≪チェック項目≫
回収の難しい貸付金・未収入金がそのままになっていないか。

≪対応≫
回収不能額を把握する。
 

⑤土地

≪チェック項目≫
帳簿価格と時価が大幅に乖離していないか。

≪対応≫
時価を把握する。
 

⑥建物

≪チェック項目≫
減価償却を適切に行っているか。経営者の私的に利用する建物はないか。

≪対応≫
適正な減価償却を行った場合の価格を把握し、経営者の私的に利用する建物については経営者による買取りを検討する。
 

⑦機械

≪チェック項目≫
不稼働設備を処分せず放置していないか。減価償却を適切に行っているか。

≪対応≫
適正な減価償却を行った場合の価格を把握する。
 

⑧ソフトウェア

≪チェック項目≫
減価償却を適切に行っているか。業務改善等に合わせてシステム更新を行っているか。

≪対応≫
適正な減価償却を行った場合の価格を把握する。適切なシステム環境に更新する。
 

⑨有価証券・会員権

≪チェック項目≫
取得価格と時価に大幅な乖離はないか。

≪対応≫
時価を把握する。
 

⑩保険積立金

≪チェック項目≫
満期はいつ来るのか、解約返戻金はいくらあるのか。

≪対応≫
契約内容を確認する。保険会社へ解約返戻金の試算を依頼する。
 

⑪賞与引当金、退職給付引当金

≪チェック項目≫
引当金を規程に基づき計上しているか。金額を把握しているか。

≪対応≫
規程に基づき、引当金の金額を計算する。
 

⑫仕入債務

≪チェック項目≫
連絡先の不明な債務はないか。未払の債務が残ったままになっていないか。

≪対応≫
実際の債務を把握する。
 

⑬未払金、借入金

≪チェック項目≫
簿外に存在する未払金、借入金等はないか。

≪対応≫
簿外に存在する負債額を把握する。

文=外丸諒一(弊社コンサルタント)