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M&Aガイド

【事業承継 種類別メリット・デメリット】理解が得やすい一方で人材確保が難しい[親族内承継]

親族事象承継

30年程前は、経営者が子供若しくは兄弟・姉妹などの親族を事業の後継者として選択する親族内承継が事業承継件数全体の約80%を占めていました(※)。その背景には、「当時はまだM&Aという手法が一般的ではなかった。」、「親族外の者に比べ、親族に継がせる方が従業員や取引先に受け入れられやすかった。」といった要因がありました。

 ところが近年、親族内承継を選択されるケースは全体の40%以下にまで減少しています(※)。これは、M&Aなどの親族外への承継手法が確立し認知された事や少子化による後継ぎ不在などが影響していますが、そもそも親族内承継が抱えている難しさに因る結果であるとも言えます。以下、親族内承継を困難にしている要因、実施する際の留意点について述べます。

困難の要因・留意点

後継者の強い意志が必要

何よりも、後継者当人に事業を継ぐ気があるのか、経営者としての覚悟があるのか、という点が重要です。生産年齢人口の減少、内需の減少、貿易摩擦、製品ライフサイクルの短縮化などがもたらす不透明で不安定な事業環境下、従業員や取引先を守り、経営を行う覚悟。債務の個人保証を背負い、会社と一蓮托生で生きる覚悟。後継者には、そういった強い覚悟、そしてそれらを乗り越えるための情熱が求められます。

経営者としての素質が必要

前項に記述した意思・覚悟を持つだけでは会社は経営できません。後継者には、統率力、意思疎通能力、広い視野、忍耐力、行動力、柔軟性といった経営者としての素質が求められます。

長期的な育成が必要

中小企業経営者の半数近くは、後継者育成(人的承継)には5~10年かかると考えています(※)。具体的に、育成が必要な項目は大きく二つに分けられます。一つ目は「自社事業の理解」で、経営の勘所を掴み、業界知識や技術の習得し、事業構造や収益構造を理解することが求められます。この能力を身に付けるには、OJTを繰り返しながら、現経営者と後継者が共同で中長期経営計画を作り上げる事などが有効です。二つ目は「従業員や取引先との人脈づくり・関係構築」で、普段の業務において次期経営者としての覚悟と行動力を関係者に示すことで、実現できると考えられます。いずれも多大な時間と労力がかかるため、親族内承継に関する早期の意思決定が重要です。

相続紛争対策が必要

親族内での事業承継を行う場合、相続人が事業を承継するケースが発生します。相続人の中には、経営の引継ぎと併せて会社(株式)を相続する者、換価価値の高い資産を相続する者に分かれるケースも想定され、相続人間で不公平感や不満の残らない相続が求められます。

上記の課題をクリアできれば、親族内承継はM&A等の親族外承継と比べて、従業員や取引先といった社内外の関係者から受け入れられやすいというメリットがあります。また、後継経営者を外部から招聘する形式や従業員を後継者に据える形式とは違い、会社の相続人と経営者が同一人物となり得ます。そのため、所有と経営の分離を回避し、経営陣はスピーディーな意志決定を行うことができます。加えて、目先の結果だけを追い求めず、中長期的な視点でマネジメントを行う体制を築くことが可能となります。

最後に、繰り返しになりますが、親族内承継は上記課題をクリアするために膨大な時間と労力を要し、結果実現できるかどうかも不透明です。本承継手法を検討される場合は、並行してM&Aなどの承継手法を検討することをお勧めします。

(※)中小企業庁HP参照

文=長澤育弘(弊社コンサルタント)